抄録
近年、重症心身障害者の高齢化が問題となっている。それに伴い悪性新生物の報告も増加してきている。しかし成人期での癌スクリーニング介入の時期については様々な意見があり一定の見解を得ていない。今回われわれは38歳時にバレット食道腺癌を発症した重症心身障害者の1例を経験したので報告する。
症例は脳性麻痺、痙直型四肢麻痺、大島分類1の重症心身障害者の39歳の男性。14歳頃より吐血・胃食道逆流を認め、32歳時には内視鏡検査にてバレット食道を指摘されていた。昨年胃瘻造設術前の食道造影検査で、食道壁の不整を認め、精査のために内視鏡検査および生検を施行したところ食道中部から下部にかけて全周性にバレット腺癌を認めた。また造影CT検査では肝臓および腹膜への転移、大動脈への浸潤も認めた。根治不能と考え、現在は緩和ケアを含めた保存的治療を行っている。
バレット食道はバレット腺癌の前癌状態と言われており高率に癌化するリスクがある。またバレット食道は逆流性食道炎が大きく関与しているといわれている。
重症心身障害者の多くは慢性的な逆流性食道炎があり、バレット食道を来す可能性が高い。逆流性食道炎のある高年齢の重症心身障害者に対してはバレット腺癌の発症の可能性も念頭に入れて定期的なフォローをする必要があると考えられる。