日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
シンポジウム1:重症心身障害児の在宅支援のあり方 −支援方法−
地域生活支援型重症心身障害児施設のとりくみ
−開設10年のまとめ−
汐田 まどか田邊 文子北原 佶小泉 浩二
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2016 年 41 巻 2 号 p. 187

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抄録
はじめに  鳥取県立総合療育センターは、昭和30年に県立県営肢体不自由児入所施設として開設された。その後、ニーズの変化に伴い、外来部門と小児科診療、外来小集団療育、通園部門、地域療育連携支援室などを開始した。そして、平成18年に新しく重症心身障害児施設(25床)を併設した。小規模の重症心身障害児施設であり、当初から終身型の利用ではなく、地域生活移行・地域生活支援をめざして運営してきた。それから10年を経て、当初予想できなかった新たな課題も明らかになっている。一方、日本で最も人口の少ない(57万人)県の県立県営施設として、県や鳥取大学脳神経小児科等と密に連携協議し、それは施策にも反映されてきた。これらのとりくみと今後の課題について検討した。 入所の動向  平成24年度からは療養介護をもたない医療型障害児入所施設(入所定員61床;重症心身障害25、肢体不自由25、短期入所6、医療保険入院5)として運営している。契約入所は急速に減少し、現在は15名(うち肢体不自由児2名)でほとんどが重症心身障害児であり、入所児全体に占める超・準超重症児の割合は60%である。超重症児というだけでなく、健康状態が非常に不安定な症例が増え、呼吸不全、イレウス、急性膵炎などによる大学病院への転院治療が多くなった。大学病院の入院を年間95日要した例もあった。 退所児の動向  退所は19名(地域生活移行8名、他施設入所11例)であった。地域生活移行例と成人施設移行例では、重症度スコア、保護者の年齢、三次医療機関までの距離、入所までの在宅機関のすべてで有意差はなかった。在宅生活移行例では短期入所の利用が月に4日~23日と、月のうち半分以上を当センターで生活している例もあった。 短期入所(ショートステイ)  病棟利用患者におけるショートステイの占める割合が高く、契約入所15名に対し、1日平均5~8名程度のショートステイ利用がある。ショートステイ利用者の多くが超・準超重症児であるが、主治医が他医療機関の患者も多く、また家族の裁量でケアを調整している場合もあり、医療ケアの情報共有には細心の注意を要する。 県・大学病院・地域との協働  平成27年4月1日の県内の重症心身障害児(者)は361名で、18歳未満は114名(うち84%は自宅で生活)、18歳以上は247名(在宅と施設入所が半数ずつ)である(県調査)。県全体の重症心身障害児(者)関係医療機関会議が継続して開催されており、「重度障がい児者医療型ショートステイ整備等事業」「重度障がい児者地域移行促進・安心事業」など多くの県の事業が立案、実施された。 また、鳥取大学脳神経小児科が行っている「重症児の在宅支援を担う医師等養成事業(文部科学省課題解決型高度医療人材養成プログラム)」に当センターとして協力している。 地域との連携では、障害児のかかりつけ医を広げる目的で、医師会を通して地域医療機関にアンケートを実施、受け入れ可能な医療機関に紹介をしている。また、訪問看護ステーションへの聞き取り調査を実施、重症心身障害児の訪問看護の課題について整理した。 考察・まとめ  超重症児が急速に増加し、その多くが在宅生活をしている。入所児数は減少したが、入所に占める超重症児と、病棟利用におけるショートステイの割合がともに非常に高くなった。入所児の合併症治療に関して、大学病院など三次医療機関との連携が不可欠である。地域生活を日数の多いショートステイによって支援している状況であるが、超重症児は健康状態の見きわめが難しいこと、家族支援のスキルが求められること、診療報酬の見地からも負担が大きいことなど、ショートステイ特有の困難さがある。一方、療養介護が制度上どうなるか不明確な中、成人超重症患者の家族が高齢化して地域生活が困難になった場合、どのような形態の支援ができるか、模索しているところである。 略歴 1983年 島根医科大学卒業・鳥取大学脳神経小児科入局 鳥取大学、鳥取県立中央病院、国立療養所松江病院を経て 1989年 国立精神・神経センター心身医学研究部研究生 1993年 鳥取大学医学部脳神経小児科助手 1995年 鳥取県立総合療育センター医師 2007年 鳥取県立総合療育センター副院長 2010年 鳥取大学脳神経小児科臨床教授 2016年 鳥取県立総合療育センター院長 所属学会 日本小児科学会日本小児神経学会(B&D 誌編集委員)日本小児精神神経学会(理事)日本重症心身障害学会日本小児心身医学会 著書 臨床実践小児神経科 診断と治療社 平成28年(分担執筆)データで読み解く発達障害 中山書店 平成28年(分担執筆)など
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