日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
一般演題
P-1-F20 尿路感染からMRSA敗血症を発症した重症心身障害者の一症例
高橋 佳代子上石 晶子杉森 光子大瀧 潮明城 和子有本 潔木実谷 哲史
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 41 巻 2 号 p. 266

詳細
抄録

はじめに メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、MRSA)は、療育施設でも感染症の原因菌として検出されることが増えている。重症心身障害児者(以下、重症児者)では感染症は重症化しやすく、治療法のみならず院内感染制御の観点からもその対策の重要性が高まっている。今回私たちは、感染源検索の過程で、尿・喀痰・血液からもMRSAが検出され、尿路感染から全身性の敗血症に至ったと思われたケースを経験したので、報告する。 症例 症例は当センターに入所中の先天性心疾患を持つ、大島分類4の重症者の45歳男性。神経因性膀胱のため、入所前から、家庭でも1日4〜5回の導尿を行っていた。たびたび尿路感染を発症し、TAZ/PIPC4.5gを1日3回投与し、尿所見が改善したところで抗生剤を中止した。何度か同じようなエピソードを繰り返した後40度の発熱が続き、同様の治療を行うも解熱せず、血液、尿、喀痰培養のすべてからMRSAが検出された。感染症専門医に相談したところ、心エコー上の所見は認めなくとも、感染性心内膜炎に準じてVCM6週間の投与を薦められた。投与量は成人の基準である1gを1日2回から開始し、TDMを測定したところ、トラフ値26.4μg/mlと高値であった。血中濃度の正常値はトラフ値10以下であるが、感染症専門医からはトラフ値12〜15になるように投与量を調整するよう指導された。投与量を変更し、0.5gを1日2回投与としTDMは13.3となった。無事6週間の投与を終え、今のところ再発は認めていない。 考察 重症児者では、経静脈での抗生剤の投与は困難を伴うことが多い。抗MRSA薬は血中濃度をモニターしながらの投与が求められ、特に重症児者では慎重に行う必要がある。投与量や投与期間を判断するに当たっては、感染症専門医との連携が望まれるが容易ではない。普段からの多領域、他施設にわたってのネットワーク作りが必要と思われた。

著者関連情報
© 2016 日本重症心身障害学会
前の記事 次の記事
feedback
Top