抄録
はじめに 重症心身障害児(者)の低蛋白血症は、慢性炎症や腸管の吸収不全など種々の原因によって生じ、治療に難渋することも多い。われわれは、分岐鎖アミノ酸高配合の栄養補助食品による補食が無効であった低蛋白血症の重症心身障害者に、中鎖脂肪酸(以下、MCT)オイル85%配合のマクトンオイルを使用し、低蛋白血症の改善をみた。 症例 67歳男性。低酸素性虚血性脳症による痙性四肢麻痺で、大島分類は9。抗てんかん薬は内服していない。食事は経口摂取で1400kcal/日(主食150g、蛋白60g、脂質44g)、喫食率は3/4〜全量、体重は40kg前後だった。本年2月、1.2kg/月の体重減少と四肢の浮腫が出現、血液検査で総蛋白値(以下、TP)5.2g/dl、血清アルブミン値(以下、Alb)2.0g/dlと低蛋白血症が判明した。炎症所見はなく、尿蛋白陰性であった。元来腸管の動きが悪く、連日浣腸で泥状便を排出しており、腸管の吸収不全による低蛋白血症と考えられた。2週間後、TP4.8g/dl、Alb1.7g/dlと低蛋白血症はさらに悪化し、分岐鎖アミノ酸高配合の栄養補助飲料を2種類、各2週間ずつ補食した(いずれも200kcal、蛋白6.5gと8.0g)。しかし摂取を嫌がる上、低蛋白血症も改善せずこれらを中止し、マクトンオイルを毎食10ml食事にかけて摂取するようにした(1643kcal/日、うちMCTオイル206.7kcal)。徐々に浮腫が軽減し、4週間後血液検査でTP5.9g/dl、Alb2.4g/dlと改善がみられた。 考察 MCTは小腸で吸収され門脈を経由し肝臓で分解され、体に蓄積せず短時間でエネルギーとなる。アミノ酸分解抑制作用や蛋白質合成促進作用があり、グレリンを活性化することでIGF-1を介し蛋白合成を亢進させる可能性も示唆されている。これらの作用が低蛋白血症を改善させたと考えられた。またマクトンオイルは無味無臭に近く、本人に負担なく摂取できた。 結論 腸管の吸収不全が基盤にある重症心身障害者の低蛋白血症の改善に、MCTが有効である可能性がある。