抄録
目的 重症心身障害児(者)病棟では、インフルエンザ・ノロ・RSなどのウイルスが持ち込まれると、容易にアウトブレイクする。多くの患者は感染しても自覚症状を訴えにくいため早期発見が難しく、治療開始が遅れ、重大な転帰をとる場合がある。また感染患者の隔離が遅れて、短期間で感染が拡大しやすい。一方、保育士、特別支援学校教諭など医療職でない多くの職種も患者に直接接触し、食事や療育での集合、介助入浴など感染を拡大させやすい要因も多数ある。 このため、アウトブレイク時には病院としての対応を迅速に決定することが重要であり、当院では2012年から「院内感染対策上の指示内容確認票」を独自に作成して活用している。 方法 確認票では、感染を拡大させうる各種の活動や業務に関して3段階の制限レベルを設定している。ICT(感染制御チーム)が、制限が必要と判断した際に、院長・看護部長らとともに協議し、病棟閉鎖など経営に関わる事柄も「院長指示」として、迅速に通達できるようにしている。 確認票の決定事項は、文書と電子カルテで全職員に周知している。 成績 2012年からの4年間にインフルエンザで2回、RS・手足口病で各1回、計4回この確認票を活用した。 確認票の運用により、アウトブレイク時に(1)短時間で必要な全項目に関する検討が可能となった、(2)減収となりうる制限も含めて迅速に「院長指示」を出すことが可能となった、(3)紙媒体と電子カルテの併用により院内の全職種に迅速に周知可能となった、(4)ICTの多くの時間と労力を現場の指導や臨時委員会の準備などに費やすことが可能となった、(5)確認票を活用するにつれて、現場もより迅速、かつ的確に対応可能となった。 結論 「院内感染対策上の指示内容確認票」は現場職員が一目で了解できて、多職種が迅速かつ組織的に連携してアウトブレイクに対応できる、大変有用な方法であると考えられる。