抄録
目的 嗅覚は、食事の楽しみと関連が深いが、脳性麻痺患者における嗅覚には、ほとんど注目されていない。われわれは、脳性麻痺と嗅覚障害とに関連があるかどうか調べた。 方法 一宮医療療育センターとその近隣の樫の木福祉会に入所あるいは通所している14人の脳性麻痺患者にOdor Stick Identification Test for the Japanese (OSIT-J)検査を行った。OSIT-J検査には、ばら、ヒノキ、香水、メントール、家庭用ガス、むれた靴下、カレー、コンデンスミルク、墨汁、木材、炒めたニンニク、みかんの12種類があるが、今回は12種類のどれかの匂いがついた紙を嗅いでもらって六つの選択肢の中から答えを選んでもらった。男性7人、女性7人で平均54.6 ± 9.9歳であった。対照は、年齢と性別をマッチさせた名古屋女子大学の学園祭に参加した一般市民14人である。ひらがなが読める能力、GMFCSレベルと正答率との関係も調べた。 結果 正答率は、脳性麻痺患者が34.4 ± 24.1%、対照が63.1 ± 16.9%で有意に脳性麻痺患者が低かった。正答率30%未満は、脳性麻痺患者にのみ6人いた。12種類の匂いのうち、香水、家庭用ガス、墨汁では、有意に脳性麻痺患者で正答数が少なかった(フィッシャー検定)。ひらがなが読める能力、GMFCSレベルと正答率とに関係は認められなかった。 考察と結論 脳性麻痺では嗅覚が低下しやすいことが明らかとなった。アルツハイマー病、パーキンソン病では、認知症出現の前に嗅覚が低下することが知られているが、脳性麻痺の小児でも嗅覚検査を行い、嗅覚障害が出生時からのものか、後になってでてくるのか、今後検討する必要がある。環境因子が関係している可能性もあり食事の楽しみと関連ある匂いにもっと注目すべきである。