日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
一般演題
P-1-G18 高齢重症心身障害者の夢の具現化
−作業療法士との調理活動を通して−
岐部 なつ美児玉 敬祐森矢 英子佐藤 圭右曽根 律子高橋 美里児玉 久美子芦刈 朝寿阿南 まみ
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2017 年 42 巻 2 号 p. 263

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抄録

はじめに 重症心身障害児者(以下、重症児者)に関わる作業療法士(以下、OT)の役割は、心身機能の維持・向上だけでなく、暮らしの中で本人が楽しめることは何か、その暮らしを長く送るにはどうしたら良いか考えることである。今回、当施設に長期入所する高齢重症者の「お寿司を食べに行きたい」という「夢」を契機に、施設内での“お寿司づくり”を実施したことで本人の意欲の向上へとつながったので報告する。 対象 痙直型四肢麻痺で横地分類C1の70歳代女性。腹臥位姿勢で日々を過ごす。左上肢は随意性が高く、目的へのreach、全指握り、側腹・指腹pinch、前腕回内90°可能。サイン、発声、表情の変化にて意思を伝える。情緒面は、ここ数年気持ちの浮き沈みが激しくなっている。 経過/結果  本人の「夢」から、ソフト食を用いた握り寿司の提供を行った。加え、「人にふるまいたい」という希望に、実際のお寿司づくり活動を立案した。これに対して、事前に紙粘土での模擬練習を行い、本人が握れる最善の量や大きさを評価し、工程の工夫を考え、本番の活動を行った。多くの職員がお寿司を食べに訪れ、本人は感謝の声掛けを受けた。活動後、本人よりOTに対して、漠然とした「料理がしたい」という今までの要求から「蒸しパンが作りたい」という具体的な要求があり、別の調理活動につながった。 考察 山根らは、「自分が役に立つ」この他者に喜ばれ自分が必要とされる「よい体験」は、自己尊重へとつながり自己有用感が生まれる、と述べている。今回OTが上肢機能の評価や事前練習を行い、具体的な活動を段階的に提供したことでお寿司づくり活動を実現することができた。また、この活動を経て本人の中でも夢が現実的なものとなり具体的な要求が生まれ、調理活動への新たな意欲へとつながったと考えた。今後も、本人が暮らしの中で調理活動を楽しめるよう、OTとして、本人が望む活動に必要な上肢機能の維持をしていきたい。

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© 2017 日本重症心身障害学会
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