抄録
はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は重度知的障害・肢体不自由の両者を合併するだけでなく、呼吸・循環器をはじめ各臓器においてもさまざまな機能障害を呈する。心合併症、特に不整脈は突然死の原因となるため迅速な病態把握・対応を要する。今回われわれは大島分類1の重症児(者)で、長期経過中に高度徐脈を呈し、異なる対応を要した3例を経験したので報告する。 症例1 Pena-Shokeir症候群の5歳男児。人工呼吸療法を要し、気管切開・胃瘻造設術後の4歳時に在宅移行目的に当院へ転院した。呼吸器離脱や鎮静薬調整を進めていたところ洞性徐脈を繰り返した。精査の結果胃食道逆流症増悪に伴う迷走神経反射と診断した。十二指腸チューブ栄養の導入や逆流防止手術が困難であり、鎮静薬の増量や終日の人工呼吸器装着により改善を得た。 症例2 Duchenne型筋ジストロフィの42歳男性。心電図モニターで徐脈を認めた。十二誘導心電図でQTc延長と心室性期外収縮の頻発を認めた。血液検査では低カルシウム血症(6.0mg/dL)を認めた。カルシウム製剤投与によりQTcは正常化し、徐脈も消失した。 症例3 周産期低酸素性虚血性脳症後遺症の14歳男児。入院中SpO2モニターの心拍数が0となることに気づかれた。ホルター心電図で突然の洞停止の後8〜10秒でp波のみ出現し、2秒ほどで洞性徐脈に復するエピソードを睡眠中に繰り返し認めた。低セレン血症(6.6μg/dL)を認め補充を行ったが、不整脈改善は乏しかった。原因は確定できず、現在ペースメーカー埋め込みの適応を検討中である。 考察 重症児(者)においては、徐脈という一つの症状を挙げても、原疾患による心機能低下の進行、多種類の内服薬、栄養や電解質の過不足、他臓器の機能低下(胃食道逆流・誤嚥)等さまざまな要素が関連し、必要な対応も多岐にわたる。診療にあたっては一つの臓器や要因に囚われず、さまざまな因子を考慮して評価・調整する総合的アプローチが必要になると考えた。