抄録
近年、新生児医療の発達や医療の高度化等により、日常生活の場において、継続的に医療的ケア(喀痰吸引、経管栄養等)を必要とする小児が増加し、文部科学省調査によれば、約8000人にのぼっており、こうした小児に対する教育の提供は、教育現場で重要なテーマになっている。従来、日常的に医療的ケアが必要な児童に対する教育は、主に訪問教育で、自宅に教員が訪問し、授業を行う方法であった。しかし、訪問教育は週3回程度で各数時間という短い時間で学習時間においても不十分であり、学校教育において重要な子ども同士の交流や、集団行動による社会的行動の体験や学び、親との分離による自立心の育成などの面で、不十分なことが多く、児童の成長・発達を考慮するとともに、人権擁護の観点からも通学の保証が必要と考えられる。さらに、近年、従来の重症心身障害児の枠に入らない、知的障害の無い子ども、あるいは歩行したり、会話ができる人工呼吸器装着児童も出現し、その数は年々増加している。
その増加に文科省でも学校看護師の数を増やすなど、様々な対応を行っているが、看護師の確保や、その研修、医療的ケア実施のためのシステムの整備、医師の支援体制などの整備が追い付かず、医療的ケア児が通う学校で十分な医療的ケアを実施できないために、保護者の付き添いが必要になったり、学校に通えない子どもがいるなどの状況がある。その問題の解決のために、在宅で利用していた訪問看護師が学校へも訪問し、医療的ケア児のケアに携わることが有効な方法の一つと考えられる。そこで、医療的ケア児が学校において義務教育を受けられる環境づくりの推進を目指し、将来的な制度設計に資する課題の整理と基礎資料を得ることを目的とし、田村正徳先生を代表として、平成30年度の厚生労働科学特別研究事業で、学校の療養生活の場における医療的ケア児への質の高い医療的ケアの提供に資する研究として、人工呼吸器を装着した児童を対象として訪問看護師の介入研究を実施した。
我々は、東京都内で10人の児童、千葉県松戸市で2人の児童を対象に研究を行った。訪問看護師の介入方法は、Ⅰ型(訪問看護師の付き添い):訪問看護師が付き添い学校での医療的ケアを全て行う。Ⅱ型(訪問看護師による伝達):訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達し、学校看護師がケアを実施する。Ⅲ型(訪問看護師によるケア+伝達)訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達し、同時に訪問看護師もケアを実施する。)Ⅳ型(訪問看護師が複数の小児をケアする)
保護者、担任、学校看護師、養護教諭、訪問看護師から事前、事後でアンケートを回収した。その結果では、保護者と担任は概ね、訪問看護師のケアは有用であるという回答であった。学校看護師は、有用と有用でないがほぼ半数で意見が分かれ、養護教諭はどちらとも言えないとの回答であった。有用でないことの理由としては、学校での医療ケアの責任の所在が不明確という意見が多く、有用な理由として、保護者の負担軽減、子どもの自主性や意欲が引き出される、学校看護師のできる医療ケアが学校のマニュアルで制限されているということが多かった。また、学校での体制として、学校看護師と訪問看護師がコミュニケーションをとり連携するⅡ型、Ⅲ型の介入が困難であり、学校での看護師同志のコミュニケーションを支える仕組み作りも重要な課題と考えられた。また、看護師が安心して医療的ケアを行うためには、その医療的ケアに責任を持つ医師が不可欠であり、主治医、指導医、学校医の連携と協議の仕組みを作り、その協議と連携の場が学校の医療的ケアの指示を出すと共に責任を持つことのできるシステムが必要ではないかと考える。
略歴
学歴
1989年3月 東京医科歯科大学医学部 卒業
職歴
1989年5月 東京医科歯科大学医学部附属病院 小児科臨床研修医/1990年5月 武蔵野赤十字病院 臨床研修医/1991年11月 東京医科歯科大学医学部附属病院 小児科/1994年4月 土浦協同病院 小児科医員/1999年6月 あおぞら診療所 設立/2004年11月 あおぞら診療所新松戸 開設/2011年4月 子ども在宅クリニック あおぞら診療所墨田 開設/2013年2月 医療法人財団はるたか会 設立 理事長就任
現職
医療法人財団はるたか会 理事長/東京医科歯科大学医学部臨床教授/東京女子医科大学非常勤講師/埼玉医科大学総合医療センター非常勤講師/慶應義塾大学看護医療学部非常勤講師/東京大学医学部非常勤講師