日本重症心身障害学会誌
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Print ISSN : 1343-1439
一般演題
O-28-04 支援を通して変化する家族の思い
−意思疎通が困難な重症心身障害児の看取りに向き合う−
吉田 裕美水野 真有
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2019 年 44 巻 2 号 p. 419

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抄録
はじめに 重症心身障害児(以下、重症児)は、継続的な医療的ケアが必要となるケースがほとんどである。重症児を抱える家族は、在宅あるいは病院・療養施設のどちらか生活の場を選択することになるが、家族の思いとは別に医療的ケア・介護能力・地域支援の状況によって判断が左右されることがある。このような家族に生じる問題が倫理的に尊重されるべく、本稿において事例を報告する。 事例 対象:16歳の女児、横地分類A1-C、気管切開、人工呼吸器装着、胃瘻造設、褥瘡形成 期間:2018.4.12〜2019.3.31 経過:脊椎性筋萎縮症で会話ができ支援学校に通っていたが、在宅にて突然心肺停止となる。病院に運ばれるが脳死判定を受けた後、重症児施設に期限付きで入所となる。父親は施設入所の継続を希望していたが母親はいずれ在宅に移行することを希望し、家族間での意見が分かれる。本人の意思確認は困難であるが、家族やスタッフの思いをふまえて作成したACPに沿って医療的ケアを継続する。個室は女児の好きな物で飾り、家族がリラックスできるよう療育チームと家族で自宅に近い環境に整え、状態が安定すればバギーでの散歩・活動もできるよう支援する。入所して1年が経過した頃、母親が女児の安定した状態と様々な経験ができる環境を壊したくないので施設入所を継続したいと考えを改める。 考察 女児の意識がなくなり呼吸管理や褥瘡ケアが必要となってからも、家族で外出や活動に参加するという事は、家族が施設での生活を前向きに捉えることに繋がる。また入浴・更衣・医療的ケアなどをスタッフと母親が一緒に行うことで、在宅と同様に女児と関わる時間を持つことができるため、女児に対してできることは何でもしてあげたいという母親の思いが尊重されたのである。そして、いずれ訪れる看取りについて家族で話し合い、母親も父親の考えに納得したため、施設での生活を選択することに繋がったと考えられる。 申告すべきCOIはない。
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© 2019 日本重症心身障害学会
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