日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
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P-14-09 強度行動障害がある知的障害者の高齢の母親の同障者家族への関心
平本 憲二上島 健馬屋原 邦博
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2019 年 44 巻 2 号 p. 478

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抄録
緒言  2018年の本学会において平本は、知的障害者の高齢の母親が子育てやきょうだいそれぞれの関わりにおいて心理的に揺らぎつつも、障害を受容していたことを報告した。本研究の目的は、強度行動障害がある知的障害者の高齢の母親のライフストーリーを通して、同障者家族への関心と行動を明らかにすることである。 方法  精神科に入院する統合失調症と網膜色素変性症(両眼視力0.09)を合併した中等度知的障害(IQ:41)を有する50歳代前半男性(以下、A氏)の母親(70歳代後半)を対象とした。母親はA氏の面会や外泊に積極的に関与し、家族会に所属している。筆者が母親に、自身の人生を通して、同障者家族への関心の有無と程度を尋ね、自由に語ってもらった。得られた音声データを逐語化し、その後、質的研究の経験者らとともにKJ法による分析とまとめを行った。所属する研究倫理審査委員会の承認を得て、対象者には文書で同意を得た。 結果  母親は夫に自身を理解してもらえない気持ちを有し、子育てする親として模索しながら、「(A氏や次男と同様に)他人に対して何かしてあげたい気持ちがあるのに何もしてあげられない、何も考えられずできない」と複雑かつ否定的な感情があった。自身の住む地域との交流はA氏の障害を理解されないことを理由に希薄であった。家族会について、母親は他の家族と談笑できることに関心を示しているが、自身のことを周囲に話されたくないことを理由に行動を起こさなかった。母親は、次男とその家族にA氏を託す意思を表明し、「今が自分の人生で良い」という楽観的思考を有していた。 考察  本研究では、母親の同障者家族への関心と行動は、障害者と母親との間に起こる母親の直面する困難感、家族機能という観点からの親の困難という経験を経て得られたと考えられる。母親は夫や子どもとの関係形成を顧みながら、女性としての自己の再検討を行っていた。今後は、多くの高齢の母親に共通する特性を明らかにしていきたいと考える。 申告すべきCOIはない。
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© 2019 日本重症心身障害学会
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