日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:大地震・大雨など大災害時の支援のあり方
熊本地震の経験から学んだ利用者支援
−入所・日中活動の現場から−
土屋 さおり
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2020 年 45 巻 1 号 p. 47-49

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抄録

Ⅰ.概要 くまもと江津湖療育医療センターは熊本市東区にある医療型障害児入所施設・療養介護事業所であり、入所以外に短期入所事業・日中一時支援事業を実施し、日中活動の事業として生活介護事業所、多機能事業所、児童発達支援事業所等がある。構造は4棟の建物が1階の渡り廊下でつながり、2棟は鉄筋コンクリート造、1棟は木造、1棟は鉄骨造である。入所病棟はすべて建物の1階、日中活動の事業所は2階にあり、立地環境は近隣に山はなく平地で、大きな河川が約1kmのところにあり、河川工事にて水害のリスクは下がったと判断されているが、最新ハザードマップ(2019.7)では0.5~1mの水害が想定される地域にある。 Ⅱ.熊本地震の対応 平成28年4月14日の前震では、センター所在地で震度6弱を記録し、自動参集基準に基づいて26名の職員が集まり、建物の安全性の確認や非常食の確認を行い、翌日の対応準備を行った。 4月15日、職員は後片付けにあたり、日中活動事業所は土曜休業日であったため、利用者の安否確認を行った。 4月16日の本震では、センター所在地で震度6強を記録した。3時間の停電があり、医療機器はバッテリー・自家発電で対応した。2階のスプリンクラー配管が破損したため、利用者の移動を行い、断水と給排水管破損のため水の使用制限を開始した。各建物をつなぐ渡り廊下の地盤沈下による通行制限を実施。短期入所・日中活動事業所は休業とし、その後、5月8日まで延長した。 給食は発災11日目の4月26日まで非常食対応とし、手作りおかずを1品つけて提供した。 発災17日目の5月2日、予定より早く日中活動事業所を再開した。 1.入所病棟の対応 入所病棟では、発災時入所者102名のうち、超重症児15名、準超重症児21名、人工呼吸器使用18名であった。利用者はスプリンクラー配管破損による病棟移動や、廊下つなぎ目の段差による移動制限から、狭い環境で過ごすことになり、もとの病棟・居室に戻ったのは発災7日目であった。明らかになった課題として、1)給排水管破損による水の使用制限期間が長期化したことで、利用者の保清や排泄に影響があったこと、2)非常食対応になったことで、嚥下困難のある利用者は栄養剤の注入等へ変更せざるを得なかったこと、3)食器が利用者に合わず、異食やケガの原因につながる可能性があったこと、および、4)利用者のストレスに対する対応として、睡眠環境の設定や活動の見直しが必要であったことが挙げられた。 2.外来・入院・短期入所 外来診療は受診予定者に受診の必要性を確認し対応した。入院は自宅被災の2名の受け入れを行い、短期入所は利用中の方で、自宅被災による受け入れ延長を希望された1名以外は、4月15日~5月8日の24日間受け入れ停止とした。 3.福祉避難 前震後の入院2名以外に震源地に近い場所に居住の利用者、自宅の被災で電源確保が難しい人工呼吸器使用者を、自主避難として優先的に5名受け入れた。それ以外は福祉避難での受け入れや同法人施設での受け入れを依頼した。見えた課題として、1)福祉避難所として実際の避難を想定したマニュアルがなかったことと、2)今回は入所ベッドの空き、短期入所受け入れ停止に伴う空きベッドを利用したが、どこまでできるのか?等がうかび上がった。今後検討していく必要がある。 4.生活介護・多機能事業・児童発達支援各事業所の対応 生活介護事業所・多機能事業所・児童発達支援事業所は4月14日~5月1日まで休園した。重症心身障害を対象とする多機能事業所では、人工呼吸器使用者は医療機関へ避難、生活介護事業所と児童発達支援事業所では、利用者から避難所生活が困難との相談があり、4月19日から臨時受け入れを再開した。 5.職員の状況 本震後の職員個別聞き取りでは、発災5~7日目でも半数以上の職員が自宅や実家以外の場所から通勤し、交通渋滞等により心身の疲労が蓄積していた。また保育園・学校が休校になったことで子どもを見る人がいない等が問題になった。そこで宿泊場所の開放・食事の確保・子どもの預かり・駐車場の開放(車中泊希望)などを実施した。 Ⅲ.熊本地震後の対応 1.アクションカードの作成 作成にあたっては『継続教育』のマネジメントグループメンバーと事務長、防災対策リーダーが集まり、検討を重ねて作成した。 2.防災マニュアルの改訂 自動参集基準の震度の見直しや防災対策本部の立ち上げなど、詳細なマニュアルの改訂を実施した。 3.夜勤者の意識向上 日本看護協会の災害看護研修への参加を推進した。 4.被害想定基準の作成 ライフラインの復旧状況が毎日変化する中で、利用者の日常生活を守るために何を基準に判断するのかを明確にするための基準を作成した。 5.広域災害救急医療情報システム(EMIS)登録・活用 広域災害救急医療情報システム(EMIS)へ登録するとともに、活用することでDMATの派遣やドクターヘリの利用など、より利用者が安心して生活できるシステム導入を行った。 Ⅳ.地震以外の災害対応(水害) 平成30年の西日本豪雨被害などをきっかけに気象庁は避難基準を見直した。そこで当センターも避難基準の見直しを行い、マニュアルを改訂。当センター周囲の地域特性を考慮して、水害時は上層階への避難とした。また、水害対策として「簡易吸水土のう」を購入し、浸水しやすい場所や電源部への漏電対策として準備した。 Ⅴ.今後の大災害時利用者支援 熊本地震を経験して、今後の大災害時の利用者支援として以下を挙げたい。 1.地震・火災と水害を区別した防災訓練を通じて、防災マニュアルの定期的な見直しを行い、同時に問題点の修正や検討を継続的に行う。当センターは検討を行う場の1つとして『継続教育』で役割を担う職員を育成し、災害看護の教育を受けた職員を増やし、管理部門の職員が同時に検討する方法を実施している。 2.日中活動の場として在宅重症児(者)の安否確認と避難生活を支えるための支援が必要。大災害で事業の継続が難しい状況であっても、困難をきわめる避難生活をどう支えていけるのか、安否確認などを通して聞き取り、寄りそった支援ができる方法を考えていくことが求められる。 3.利用者の生活を守るために職員の心身の健康を守ることも重要である。大災害時は職員も被災者であることを忘れず、職員への聞き取り調査を行いながら、一人ひとりの状況に寄り添いながら対応することが重要である。 4.利用者の震災ストレスを考慮した支援を早期から実施することが望まれる。睡眠時間の調査研究から、いつでもどこでも休める環境を作ること、支援者中心の環境(情報収集のための報道番組視聴・手が届きやすい場所での集団生活)にならない等の配慮が必要である。 Ⅵ.おわりに 今回、熊本地震の経験を振り返り、当センターにおける、その後の対応までを報告した。この報告が重症心身障害児(者)の生活を守るために、減災の取り組みとして活かされると幸甚である。

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