日本重症心身障害学会誌
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教育講演4
重症心身障害児者の医療における話し合いについて考える
余谷 暢之
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2024 年 49 巻 1 号 p. 39-42

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抄録
Ⅰ.はじめに 医療における方針決定において、治癒が目指せる状況にあれば医療的な正しさが優先される。しかし治癒が目指せない状況においては、医療的な正しさが必ずしも正しいとは限らなくなる。本人、家族が大切にしたいことがあれば、医学的には次善の策であったとしてもその方がよいということもありうるのである。つまり治癒が望めない状況においては、医学的最善が本人の最善とは限らない、また医学的に無益と考えられることが本人にとって無益とは限らない状況も起こりうる。 こういった状況において、治療方針を決めていくためには対話が重要になる。医療者は医療の専門家として医学的状況を伝える。患者家族は本人の専門家としてどのように人生に向き合い、何を大切に考えているのかなど本人の想いを伝える。この対話を重ねていくことが意思決定につながる基礎となる。 Ⅱ.治癒が望めない状況における意思決定 治癒が望めない状況において医療者は、最期をどのように過ごすのかということが重要な関心事項になりやすい。 米国では、「患者・医師間のコミュニケーションが増え、予後や患者の意向についての理解が進めば、より早期から治療の意思決定がなされ、死亡前に望まない状態で過ごす時間が減るのではないか」との仮説の元、SUPPORT研究と呼ばれる大規模な介入研究が行われた1)。これは9105人の生命を脅かす疾患に罹患した成人患者を対象に、熟練した看護師が病状理解を確かめたうえで事前指示書を作成し、情報を医師に伝えるという介入を行った。クラスターランダム試験で行われたこの研究結果は、介入群と非介入群でICUの利用率、患者家族の満足度などいずれも差のないnegative studyであった。つまり、事前指示書を作成しても、患者家族の満足度につながらないということが示されたのである。研究者たちは、事前指示書が有効でなかった理由として、代理決定者が、患者がなぜそのような選択をしたのか、その理由や背景、価値観がわからないと、その時点での選択が今も同じかどうかわからないためできるだけのことをしてほしいと答えてしまうのではないかと推定した。つまり書面だけでは十分に患者の意向を反映することができないことがこの研究から明らかになった。 こういった研究結果を受けて、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の重要性が謳われるようになった。 ACPについては国際的なデルファイ研究から以下の2つの定義が示されている。 「ACPは、年齢や病気を問わず、成人患者が自身の価値観、生活の目標、今後の治療に対する意向を理解・共有することを支援するプロセスである。ACPの目的は、重篤な病気や慢性疾患の中で、人々が自身の価値観、目標、意向に沿った治療を受けられるように支援することである。多くの人々にとって、このプロセスは本人が自分で意思決定できなくなった場合に意思決定してくれる信頼できる人(等)を選ぶことが含まれる」。 (Sudore RL, st al.J Pain Symptom Manage 53:821−32.2017.) 「ACPとは、意思決定能力を有する個人が、自分の価値観を確認し、重篤な疾患の意味や転帰について十分に考え、今後の治療やケアについての目標や意向を明確にし、これらを家族や医療者と話し合うことができるようにすることである。ACPにおいては、個人の身体・心理・社会・スピリチュアルな面を通じた気がかりを話し合うことも重要になる。万が一自分で意思決定できない時が来ても自身の意向が尊重されるためには、あらかじめ自分の代理人を決定し、意向を記載し、定期的に振り替えることが推奨される」。 (Rietjens JAC, et al.Lancet Oncol 18:e543−51.2017.) こういった定義から浮かび上がるACPを行うことのポイントの一つとして、患者の意向を尊重したケアが、患者が意思決定できなくなった段階でも尊重されるということが挙げられる。しかし、終末期における治療の選択はそれほど単純ではなく、年齢、身体認知機能、文化、家族の希望、臨床医のアドバイス、介護者の負担感(例:身の回りの世話をする必要、仕事を休む時間、精神的負担、医療費の自己負担)などに影響を受け、これらは時間とともに変化するため、こういった流動的なものである2)。ACPは、医療従事者とのコミュニケーション、信頼、病気の受容など、患者家族のwell-beingにとって極めて重要な活動の基礎となるものであり、高度急性期環境で死亡することを回避するための手段ではないことを知っておく必要があるだろう。 我が国においても多職種の専門家によるデルファイ研究でACPについて以下のような定義が示されている。 「アドバンス・ケア・プランニングとは、必要に応じて信頼関係のある医療・ケアチーム等の支援を受けながら、本人が現在の健康状態や今後の生き方、さらには今後受けたい医療・ケアについて考え(将来の心づもりをして)、家族等と話し合うことです。 特に将来の心づもりについて言葉にすることが困難になりつつある人、言葉にすることを躊躇する人、話し合う家族等がいない人に対して、医療・ケアチーム等はその人に適した支援を行い、本人の価値観を最大限くみ取るための対話を重ねていく必要があります。 本人が自分で意思決定することが困難になったときに、将来の心づもりについてこれまで本人が表明してきた内容にもとづいて、家族等と医療・ケアチーム等とが話し合いを行い、本人の価値観を尊重し、本人の意思を反映させた医療・ケアを実現することを目的とします」。 (Miyashita J, et al.J Pain Symptom Manage 64:602−13.2022.) 日本の定義では、今後受けたい医療・ケアだけでなく、現在の健康状態や今後の生き方まで広げた話し合いとしており、ACPは人生の最終段階に限ったことではないということがそこに含まれている。また本人と家族が中心の話し合いに主眼を置いているところも大切なポイントになっており、自己決定を中心とする欧米の定義とは異なる日本の文化的特徴を反映した定義になっている。 このように、ACPについては様々な議論が行われているところであるが、共通していることは、ACPは治療方針を決定することではなく、ACPのプロセスを通じて価値観を患者・家族・医療者間で共有することにあり、その共有した価値観を踏まえて、必要な時の意思決定や緩和ケアの実践につなげていくことが重要だと私は考えている。 Ⅲ.重症心身障害児者の医療における話し合い 重症心身障害児者を含む重症な病態を持つ子ども(以下、重症児)においては、その疾患の軌跡(図1)から予後が見据えにくく、そのため普段からの継続的な話し合いが重要になる。Orkinらは、こういった話し合いにおいては、「子どもの疾患の軌跡の各段階における意思決定について、両親の多様な好みを理解し、支援することを試みることによって、Shared Decision Makingを実践すべきであり、そのためには、個々の家族や患者に対応する際に、柔軟で個別的に対応することが必要である」としている3)のような点からは、普段の会話の中でも子どもと家族について知ることを意識することが重要になる。以下のような会話は、子どもと家族を知る会話の例として知っておくとよいだろう。 ①本人についての問い ・〇〇ちゃんはどのようなお子さんですか? ・お子さんの人生で大切なことは何だと思いますか? ②生活についての問い ・〇〇ちゃんにとって良い一日とはどのようなものでしょうか? ・〇〇ちゃんの生活の質のために何が重要だと思いますか? ・〇〇ちゃんのために達成したいことはありますか? ③両親についての問い ・〇〇ちゃんにとってあなたはどのような親ですか? ・〇〇ちゃんにとって、あなたはどのような親でありたいですか? ④病気について ・〇〇ちゃんの病気や病状は、親であるあなたにとってどのような意味がありますか? ・家族としてどのような意味がありますか? ・お子さんの病気や症状はどのように変化していくと思いますか?  ・そのことは〇〇ちゃんとあなたの家族にとってどのような意味がありますか? このような対話を通じて子どもと家族について知ることが話し合いの基盤になるといえるのではないだろうか。またこういった話し合いをするときは、医療者の文脈に合わせるのではなく、患者・家族の文脈に合わせて聞いていくとよい。その子と家族のものがたりはそれぞれ異なる。これまでの歩みを紐解きながら話を聞いていくと、子どもと家族が大切にしてきたことや、どうしてそのように考えるのかを理解することにつながる場合がある。 一方で、病状が悪化し差し迫った状態にある場合においては、医療者と家族との間により緊張感が高まる。家族は今をどのように快適に過ごすかに注目して考え、医療者はどのように最期を過ごすのかに注目して考えることが多いとの報告もある3)。 このように、家族と医療者の認識や意向が異なる場合に、まずは捉えている事実が同じかどうかを確認するとよい。実際家族に以下のように尋ねて病状認識を確認してみるとよいだろう。 (以降はPDFを参照ください)
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