抄録
本研究の目的は,歌劇(楽劇)で意図されている情緒的表現を理解しようとする際に,台本(テクスト)からの言語的な情報がどのような影響を与えるのかを調べることである。被験者は音楽を職業としている専門家30名であり,「ワルキューレ」から抜粋された9箇所のピアノ楽譜に対して,12の情緒表現語による単極5段階尺度への評定を求めた。その際,半数には楽譜とともに台本も与えられた。結果は,台本によって情緒表現語の因子構造そのものは変化しないが,台本の有無と刺激の交互作用は有意であり,一部の刺激は台本によって評定値が変化していた。また,評定にかかる平均時間が,台本により有意に短縮されることも明らかになった。