多文化関係学
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文化本質主義的視点の調整
東京を拠点とする韓国伝統舞踊家の エスノグラフィーからの一考察
猿橋 順子
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2022 年 19 巻 p. 3-22

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抄録

本稿は、東京を拠点に、朝鮮半島を発祥とする民族的・伝統的な芸能に従事する人びとの活動について行った、エスノグラフィックなフィールドワークからの報告である。東京で20 年間活動する、ひとりのニューカマー韓国人舞踊家に注目し、さまざまなインタビュー場面で現れる文化本質主義に関連する語りについて、言及される関係者とその包摂と排除のダイナミズムを分析する。文化本質主義については、硬直的なパワー関係や、ステレオタイプを増幅させる、特定の文化ジャンルと国家を恣意的に結びつけてしまうなどの問題点が指摘されているが、それ自体を退けることは難しく、文脈や状況に応じた葛藤や問題を明らかにし、葛藤を軽減し、問題を克服する方略を探究することが模索されている。今回の調査からは、場面に応じて、「自己規定」、「家族的類似」、「自己明確化」、「問い枠組みの修正」が認められた。また、複雑な対人関係はライフヒストリーや、舞踊教室での実践を語る時よりも、公演活動の説明で顕著に見出された。韓国伝統舞踊家の語りの中では、関係者の調整の中で、自身の位置取りを定めるための共感的かつ戦略的な文化本質主義の動員や言い換えがさまざまになされることを認めたが、それらを超越する真正な韓国伝統舞踊への本質主義的視座も持ち合わせており、それが理想となって動的な調整を包含していると分析した。

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