多文化関係学
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最新号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 東京を拠点とする韓国伝統舞踊家の エスノグラフィーからの一考察
    猿橋 順子
    2022 年 19 巻 p. 3-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー
    本稿は、東京を拠点に、朝鮮半島を発祥とする民族的・伝統的な芸能に従事する人びとの活動について行った、エスノグラフィックなフィールドワークからの報告である。東京で20 年間活動する、ひとりのニューカマー韓国人舞踊家に注目し、さまざまなインタビュー場面で現れる文化本質主義に関連する語りについて、言及される関係者とその包摂と排除のダイナミズムを分析する。文化本質主義については、硬直的なパワー関係や、ステレオタイプを増幅させる、特定の文化ジャンルと国家を恣意的に結びつけてしまうなどの問題点が指摘されているが、それ自体を退けることは難しく、文脈や状況に応じた葛藤や問題を明らかにし、葛藤を軽減し、問題を克服する方略を探究することが模索されている。今回の調査からは、場面に応じて、「自己規定」、「家族的類似」、「自己明確化」、「問い枠組みの修正」が認められた。また、複雑な対人関係はライフヒストリーや、舞踊教室での実践を語る時よりも、公演活動の説明で顕著に見出された。韓国伝統舞踊家の語りの中では、関係者の調整の中で、自身の位置取りを定めるための共感的かつ戦略的な文化本質主義の動員や言い換えがさまざまになされることを認めたが、それらを超越する真正な韓国伝統舞踊への本質主義的視座も持ち合わせており、それが理想となって動的な調整を包含していると分析した。
  • 1970年代の在日朝鮮人教育実践に着目して
    河藤 一美
    2022 年 19 巻 p. 23-37
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー
    本稿では、民族学級の民族講師と教職員が協働する公立小学校を事例に、協働関係への転換期と考えられる1970 年代に焦点をあて、非対称関係をいかに協働関係へと変容させることができるのか、その変容過程を明らかにすることを目的とする。調査の方法は、民族学級の記念誌と1970 年代の在日朝鮮人教育実践に関わった当事者に半構造化インタビューを実施し、得られたデータを用いて分析した。分析の結果、日本人教師による組織としての朝鮮人教育研究部の創設が、日本人教師に朝鮮人児童の生活実態の把握と社会的差異の認識を促し、民族講師が自身の思いや考えを伝える議論の場を生み出したことで、民族講師と日本人教師との関係の変容に寄与したのがわかった。民族講師と共に取り組む在日朝鮮人教育の目標を掲げ、教科学習に朝鮮についての学びを取り入れることで、民族講師と日本人教師との交流や相互作用が生まれ、影響を及ぼし合う新たな関係へと変容していく。更に関係が深化することで双方が主体化し、在日朝鮮人教育の新たな教育実践が展開され、民族講師と日本人教師の関係は、協働関係へと変容していく。踏まえて最後に学校教育における協働という視点から、本稿の今日的意義を述べた。
  • 日本的観点の導入と理論的整合性の向上
    山本 志都
    2022 年 19 巻 p. 39-59
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー
    本研究では質問紙調査によって日本的な観点と異文化感受性発達モデル(DMIS)の理論を統合した異文化感受性を検討した。この検討においては、日本の文脈から異文化感受性の認知を検討した先行研究の結果に加え、知覚対象としての差異を情報処理する構造の発達に基づきDMIS の各段階を再定義した理論的枠組みが用いられた。最初に、先行研究と理論に従い作成した項目を構成概念化して、確認的因子分析で検証した結果、このモデルはデータからは支持されなかった。次に探索的因子分析を行った結果、4 因子構造が確認されたが、第2 因子の「中継段階」には、自文化中心的な概念から相対主義的な概念までが幅広く混在して含まれた。そこで点数に重みづけを施して、防衛的な知覚の影響を除いたデータで再度探索的因子分析を行ったところ、異なるパラダイムに基づくことが仮定された段階は分離して、独立した構成概念を形成した。最終的に二次分析までを含めて7 つの構成概念(無知・無関心 / 拒絶 / 曖昧化 / 矮小化 / 異対面 / 相対化 / 相互適応)を特定したことにより、理論的混乱が解消され、またパラダイムシフトにつながる転換点の構成概念も明確になった。これにより、異文化感受性を観測する上での日本的観点の導入と理論的整合性の向上に寄与することができたと結論づける。
  • 大川 ヘナン
    2022 年 19 巻 p. 61-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー
    本研究は、在日ブラジル人の若者とその家族にフォーカスし、教育達成を阻む構造的要因を明らかにすることを目的とする。1989 年に出入国管理及び認定法が改正されてから既に30 年以上経過しているが、ニューカマー外国人の中で在日ブラジル人は依然として教育達成に大きな課題を抱えている。これまでの研究においては、在日ブラジル人の移動に焦点を当てた研究が行われ、移動に伴う困難が語られてきたが、本研究では移動を繰り返す在日ブラジル人ではなく、定住を決めた家族の教育達成の困難さを明らかにしていく。本研究の調査協力者たちの若者は日本語とポルトガル語のバイリンガルであり、学力面でも進学が可能であったが、進学を達成することが叶わなかった者や進学を選ばなかった者、または進学しても大学を半ばで諦めることとなった若者である。また、かれらの親は教育意識が高く、日本にも適応している親たちであったが、若者たちの教育達成をサポートすることが叶わなかった。本稿で明らかになったのは在日ブラジル人家族の日本社会における孤立であり、それぞれの家族が教育達成に向けて単独の努力を行っている状態である。その改善には、より適切な支援のあり方と日本社会と在日ブラジル人コミュニティ双方からのアプローチが必要である ことが提示された。
  • 心理的適応との関連から
    趙 師哲, 田中 共子
    2022 年 19 巻 p. 81-99
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー
    日本で長年就労ないしは生活する中国出身者における異文化適応の心理的解明の端緒として、海外の異文化滞在者研究に適用されてきた文化変容方略に焦点を当て、文化変容方略と心理的適応の関連を探索した。滞日期間が3 年以上の日本在住中国出身者を対象にオンラインの質問紙調査を行い、307 名の回答を分析した。ホスト志向性とエスニック志向性を2 軸として、文化変容方略の4 分類に対象者を当てはめて一元配置分散分析を行い、以下の仮説検証を試みた。仮説1:統合群及び同化群の主観的ウェルビーイングは、分離群及び周辺化群より高い。仮説2:統合群及び同化群の抑うつは、分離群及び周辺化群より低い。仮説は部分的に支持された。ウェルビーイングに関しては、「幸福実感」は統合群と同化群において分離群より有意に高く、「達成実感」は統合群と同化群において分離群及び周辺化群より有意に高かった。「抑うつ」には有意差が見られなかった。海外で多く検証されてきた、統合が有利との定説は、日本の最大エスニックグループである中国出身者においては支持されなかった。日本社会では、ホスト文化と馴染む関わり方ができるかどうかが、心理的適応に肯定的に関わっていること、エスニック文化の維持による違いは目立たず、むしろエスニック文化に傾くことに不利が伴う可能性が示唆された。在日コリアン及び他の外国にいる華僑華人の知見との対比的検討を行い、文化受容と異文化適応への社会的環境の影響を議論した。
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