日本で長年就労ないしは生活する中国出身者における異文化適応の心理的解明の端緒として、海外の異文化滞在者研究に適用されてきた文化変容方略に焦点を当て、文化変容方略と心理的適応の関連を探索した。滞日期間が3 年以上の日本在住中国出身者を対象にオンラインの質問紙調査を行い、307 名の回答を分析した。ホスト志向性とエスニック志向性を2 軸として、文化変容方略の4 分類に対象者を当てはめて一元配置分散分析を行い、以下の仮説検証を試みた。仮説1:統合群及び同化群の主観的ウェルビーイングは、分離群及び周辺化群より高い。仮説2:統合群及び同化群の抑うつは、分離群及び周辺化群より低い。仮説は部分的に支持された。ウェルビーイングに関しては、「幸福実感」は統合群と同化群において分離群より有意に高く、「達成実感」は統合群と同化群において分離群及び周辺化群より有意に高かった。「抑うつ」には有意差が見られなかった。海外で多く検証されてきた、統合が有利との定説は、日本の最大エスニックグループである中国出身者においては支持されなかった。日本社会では、ホスト文化と馴染む関わり方ができるかどうかが、心理的適応に肯定的に関わっていること、エスニック文化の維持による違いは目立たず、むしろエスニック文化に傾くことに不利が伴う可能性が示唆された。在日コリアン及び他の外国にいる華僑華人の知見との対比的検討を行い、文化受容と異文化適応への社会的環境の影響を議論した。
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