抄録
食品成分や栄養素の新規な生理活性として「哺乳類のDNA合成酵素 (DNAポリメラーゼ, pol) の分子種に対する選択的阻害活性」に注目した。「ホウレン草の糖脂質画分」にDNA複製型のpolα, δ, εに対する選択的阻害活性を見いだし, マウスにその糖脂質画分を経口投与することにより, その画分は副作用がない抗腫瘍活性を持つことを明らかにした。DNA複製型のpol阻害成分を高含有する食品素材は, 抗がん機能性食品としての開発が期待できる。一方で, 「クルクミン (Curcumin) 」はDNA修復・組換え型のpolλを特異的に阻害して, マウス耳の抗炎症活性を示した。そして, マウスのマクロファージ (抗原提示細胞) において, 炎症刺激によりpolλ発現が上昇すること, クルクミンはpolλの活性阻害だけでなく発現抑制も同時に行うことを見いだした。このpolλの発現量の増減は, 炎症マーカーであるTumor Necrosis Factor-α (TNF-α) の分泌量の増減と一致した。従来のpol阻害剤は全てのpol分子種を同時に阻害する「猛毒」であるが, 食品成分・栄養素による特定のpol分子種に対する選択的な阻害剤は毒性がない「生体機能調節物質」になることを我々は提唱した。pol分子種選択的阻害活性という科学的根拠に基づく抗がん・抗炎症機能性食品の開発が期待される。