宇宙環境は微小重力や放射線曝露など地上と大きく異なる特性を持ち, 宇宙飛行士の身体機能に多方面の影響を及ぼす。こうした環境において, 栄養管理は単なる栄養補給にとどまらず, ミッション全体に対するリスクマネジメントでもある。国際宇宙ステーション (ISS) における日本人宇宙飛行士の健康管理は, 従来米国航空宇宙局 (NASA) の体制に依存していたが, 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) は2020年, 管理栄養士が分析・評価および助言を行う自立的な栄養管理体制を構築した。これにより食事を摂取してからフィードバックまでのタイムラグの縮小や食行動の可視化ができ, より個別の状況に即した支援が実現している。本総説では, 現状の栄養管理と日本人宇宙飛行士の嗜好性を考慮した宇宙日本食の役割を整理し, 2030年以降の月・火星探査を見据えた課題を共有する。栄養学を食卓に翻訳する専門職として, 宇宙と地上の知見を循環させる管理栄養士の存在が今後さらに重要性を増すと期待される。
SPACE FOODSPHEREは「宇宙から共に創る, 人と食と地球の未来。」というコンセプトを掲げ, 地球と宇宙に共通する食や暮らしの課題解決を目指すコンソーシアム型の共創プログラムである。50以上の企業や大学, 研究機関, 有識者等が集い, 研究開発から事業開発, 実証/社会実装までを推進している。2021年12月には, SPACE FOODSPHEREを代表機関とするコンソーシアムが, 内閣府宇宙開発利用加速化戦略プログラム (スターダストプログラム) の一環である「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」戦略プロジェクト (農林水産省主管) において, 本格的な共創型研究開発を開始した。また, 2022年にはビジネス創出の加速を目的とした「Space Reverse Innovation Program」に着手し, 最初のテーマとして災害/有事の食の課題解決を設定。2023年から複数の共創型プロジェクトも動き出している。人類が月面滞在を目指す上で必要不可欠な「食」の開発の最新動向と, その取り組みが災害時などの地上の課題解決にとって重要な視座とトリガーになり得ることを紹介する。
これまで地球低軌道を周回する宇宙船で, 宇宙環境が植物の成長に及ぼす影響や宇宙で植物を育成するための環境制御法などの研究が行われてきた。とりわけ, 地球重力に適応して進化した植物の重力応答のしくみを理解するために, 宇宙は微小重力環境を提供する貴重な実験室である。例えば, われわれのキュウリを用いた宇宙実験は, 芽生えの重力形態形成と根の水分屈性の制御機構解明の糸口をもたらした。今日, これまでの地球低軌道上での宇宙実験の成果を踏まえ, 月や火星の有人探査が活発化し, 2030年には人類が月面に長期滞在すると予想されている。そのためには, その場での食料の生産・供給が必須とされ, 人工光型植物工場の宇宙版が検討されている。遠い宇宙で作物を生産するためには, その場の重力や宇宙放射線や太陽光を含む宇宙複合環境が植物の成長に及ぼす影響を理解し, 宇宙植物工場に適した新作物を作出すると同時に, 高効率な栽培技術と限られた資源を再生・循環させる技術の開発が不可欠である。
宇宙環境は微小重力や宇宙放射線などの極限環境により, ヒトの生理機能に急速な老化様変化を引き起こすことが知られている。これらの変化の中心にはミトコンドリア機能不全とATP産生低下があり, 地上の老化現象と共通する分子基盤を示す。本研究では, 老化を「エネルギー代謝の破綻」と捉える新しい視点を提示し, 慢性的低酸素によるHIF-1α安定化と好気的代謝抑制がATP枯渇を招く連鎖を明らかにした。さらに, 低酸素環境に適応する高地民族の食文化に着目し, フラボノイドの一種ケンフェロール (kaempferol: KMP) に辿り着いた。細胞試験, 動物試験, 臨床試験により, KMPはHIF-1α制御を介して好気的代謝を再活性化し, ATP産生を促進することを確認した。宇宙環境模擬条件下でのマウスおよびオルガノイド試験でも, KMPは臓器機能低下を抑制した。今後, 宇宙飛行士対象試験や個別化栄養への応用が進展すると見込まれ, 「エネルギーの視点から老化と健康を再定義する」パラダイムの基盤と成り得る。
喫食工夫による食塩やその他の栄養素の摂取量を明らかにすることを目的として, 汁系めん料理の汁を残した際の栄養素等摂取量を, 分析により検証した。喫食頻度が高い汁系めん料理9種類 (うどん, そば, ラーメン) について, ゆでめん, 喫食めん (汁を残して喫食しためん), 汁の栄養素を分析した。分析対象の栄養素等は, 栄養成分表示の義務または推奨項目, 調理損耗, 公衆衛生課題を鑑み選定した。ゆでめん100 gに対する喫食めんの食塩相当量は, うどん料理は1.1-1.5 g, そば料理は0.8-1.4 g, ラーメンは2.1-5.8 gであった。喫食めんの栄養素は, 汁の栄養素含有量に依存していた。喫食めんの食塩相当量の減少程度は, 料理 (めんと汁を全て喫食した場合) と比較して55% (煮込みうどん)-76% (つけそば) であった。本研究から, 汁系めん料理の汁を残すことによる栄養素の損耗が明らかとなり, 消費者の喫食工夫により大幅な減塩を達成できる可能性が示唆された。
胃電図は, 体表面より導出した胃平滑筋電気信号の周波数解析による胃機能評価法である。これまでに朝食欠食等により朝食摂取前の胃運動が減弱することや, 胃収縮の強さと食欲が関連することを報告しているが, 生活習慣の影響は不明であった。そこで本研究では, 朝食摂取習慣を有する若年女性106名の朝食摂取前の胃電図 (胃運動のパワーと出現頻度) と生活リズム (睡眠や朝食時刻) との関連を検討した。その結果, 胃運動の出現頻度 (低) と平日の朝食摂取時刻 (遅) に有意な相関が認められ, 加えて胃運動のパワー (低) と平日の睡眠時間 (長), 平日の起床時刻 (遅), 平日の睡眠中央時刻 (遅) の間にも有意な相関が認められた。重回帰分析の結果, 胃運動出現頻度 (低) に朝食摂取時刻 (遅) が独立して関連していた。結論として, 朝食摂取習慣を有する若年女性において, 朝食摂取前の空腹期胃運動に平日の習慣的な朝食摂取時刻が関連することが示唆された。