2023 年 76 巻 6 号 p. 357-362
骨格筋は体内の糖の大部分を代謝する重要な糖代謝器官である。2型糖尿病患者では, 骨格筋に過剰に蓄積する脂質がインスリン抵抗性にかかわることが知られており, 骨格筋に存在する脂質が筋の機能に重要な役割を担っていると考えられている。しかし, 骨格筋は脂質代謝特性の異なる速筋線維と遅筋線維が混ざり合って存在し, 組織抽出物を用いた解析では詳細な脂質組成を明らかにできなかった。そこで筆者は組織切片上で脂質の局在解析を可能にする質量分析イメージングの手法を骨格筋に応用し, 脂肪酸鎖長や不飽和度の異なる脂質を個々に局在可視化することに成功した。その結果, 速筋線維・遅筋線維は異なる細胞膜リン脂質によって構成されていることを明らかにし, 運動トレーニングに伴う筋肥大や高脂肪食負荷に伴う筋萎縮, さらには食餌によって引き起こされる筋肥大によって骨格筋中のリン脂質が変動することを明らかにしてきた。