栄養と食糧
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松茸に関する生化学的研究 (第7報)
フェニルエチルアミン, チラミン, ヒスタミンのシロネズミに対する毒性
井上 伊造
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1963 年 15 巻 5 号 p. 392-397

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抄録
初期腐敗松茸にフェニルエチルアミンおよびヒスタミンが, また強度腐敗松茸にチラミソが生成することを認め, これらを分離した画分と標準アミンを対照に比較して動物実験を行なった結果は, 何れもよく似合った症状を呈した。またヒスタミンとフエニルエチルアミンの混合を注射すると興奮の後, 激しい症状が現われ, 遂には蹲まるようになり, 呼吸頻数を経てから吸気性深呼吸困難に陥り昏睡状態から斃死するが, 死亡しないものの回復は極めて速やかであることを認めた。堀尾, の報告によればヒスタミンの致死量はビタミンB6の関係が顕著でB6投与群で, 800~1, 000mg/kg, B6欠乏群で200~400mg/kg, チラミンの致死量は800mg/kg (ただし何れも腹腔内注射), また中村の報告ではヒスタミソの致死量はMLD5mg/kg (ただし静脈内注射) であるが, 皮下注射の詳しい報告は知らない。皮下注射の場合は堀尾のヒスタミン致死量の3~3.8倍量の注射量でも死亡せず, チラミンの致死量は2.2倍量の注射量でも死亡はみなかった。またアミンの注射は除々に増量することにより抵抗性が増すことを認めた。フェニルエチルアミンの致死量は, MLD264mg/kgであったが, ヒスタミン285mg/kgと混合して注射するときは, フェニルエチルァミン85mg/kgがMLDとなり, これはフェニルエチルアミン単一注射の1/3弱の量であることを知る。致死量に関しては両者の間に第5図のような興味ある相関関係のあることを認めた。とくに画分2 (推定フェニルエチルァミン) と画分4 (推定ヒスタミン) の混合を注射したときの∠D50ば略々上記MLD曲線の近くにあることを認めた。またヒスタミソとフェニルエチルアミンを混合して注射した場合は, 肝障害も最も甚しく, 細胞間異物沈着, 異不同, 細胞破壊, 出血などを鏡検した。
すなわちシロネズミに対して, ヒスタミンとフェニルエチルデミンは相乗的に作用することを認めたこれらの走状は, 河端ら, 宮木ら, 相磯らが異常に多く存在するヒスタミンに協働的に働く腐敢アミンや特殊な毒物でおこると言うアレルギー様食中毒と類似した。また松茸中毒が腐敗の初期におこり, その中毒症状は急激であるが, 回復は速やかで死亡例のないことは, 有毒アミンによる食中毒と類似する。
チラミンの存在を強度の腐敗松茸に認めたが, 初期腐敗松茸には検出しなかったことやこの時期におけるチロシンの消失も認めなかったことは, 宮木らの言う均腐敗時におけるアミン類の消長と一致するものであり, 初期腐敗段階でおこる松茸中毒は, チラミンによるとは考えられない。
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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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