抄録
各種栄養素あるいは物質を胃内へ強制投与し, 膵酵素外分泌に及ぼす影響を総胆管瘻を施した白ネズミで観察した。総胆管瘻より膵液, 胆汁混液を10分ごと, 2時間にわたり採集し, 各採集液を適度に稀釈してアミラーゼおよびたん白分解酵素活性を測定した。
たん白質, 脂肪は膵消化酵素分泌を強く促し, 炭水化物ではその作用の弱いことが報告されており, わたしどももカゼイン投与は澱粉投与時よりも両酵素活性の高いことを確認した。
脂肪の分泌促進作用はココナッツ油で最も強く, オリーブ油, サフラワー油, とうもろこし油と弱くなり中鎖脂肪酸よりなる中性脂肪MCTでは著しく弱い。
さらに, カプロン酸, カプリル酸よりもラウリン酸, オレイン酸などの炭素鎖の長い脂肪酸は明らかに分泌促進作用の強い傾向を示し, 脂肪による膵消化酵素分泌刺激は不飽和度よりも炭素鎖の長短に関係するものと考えることができる。
澱粉を消化させ低分子にすると澱粉そのものよりも分泌刺激作用の低下が認められるのに対して, カゼイン, カゼイン消化産物, カゼイン類似アミノ酸混合物はいずれも同様の強い膵消化酵素分泌促進効果を示した。
一方PVP, PEGのような消化吸収をうけない高分子物質を低張溶液として投与した場合にも, 低分子物質であるホウ酸を高張溶液にして投与しても膵酵素外分泌刺激作用の著しく強い事実はTonicityには関係なく, また, 十二指腸粘膜表面に存在するReceptorの多様性を思わせる。
PEG, PVP投与でも膵分泌刺激作用を十分発揮することは, 物質が細胞内へ吸収されなくともCCK-PZ遊出のための刺激を感知し得るものと考えられる。
強い刺激効果を有した物質の中にデタージェント作用をもつものも含まれていたので, 一般に表面活性剤として使用されているTween 80, Triton×100, デオキシコール酸を胃内へ注入したが, それほど強い分泌促進を認めず, 少なくとも表面活性作用とCCK-PZ遊出との関係はないように思われる。