抄録
レモンやみかんなどの柑橘類の果皮が, それらの酸性の果汁にふれるような加工品たとえば, マーマレードやいわゆるレモン酒には, 保存中に香りの変化するものがある。その要因は, 酸性溶液中におけるシトラールの変性によるものと考えられる。そこで, シトラールをエタノールに溶解してクエン酸溶液に添加し, 得られたシトラールの変性物を真空蒸留およびカラムクロマトグラフィーにより分画した。分離した各成分についてはGC, IR, NMRおよびMSなどによる物質の同定を行なうとともに, それらの生成経路について検討を行なった。
1) シトラールの変性物としてp-サイメンのほかに2-p-tolyl-2-propanol, 2-p-tolyl-propeneおよび2-p-tolyl-2-ethoxypropaneの3成分を分離した。3成分中前二者のGCとIRは合成品のそれらとよく一致した。
2) シトラールが変性して生じた2-p-tolyl-2-pro-panolはさらに変性して2-p-tolyl-propeneを生じ, エタノールの共存する場合は2-p-tolyl-2-ethoxypro-paneも生成する。
3) 2-p-tolyl-propeneは酸性溶液中でシトラールが変性したときのきわめて特徴的な香りを示した。