人がのどの渇きを感じるとき, 生体内でどのような変化が起きているのかを明らかにするため, 指標として渇きによって変化する唾液の分泌量や性状を捉えることにした。また, 飲水による渇きからの回復時に関しても検討を行った。
実験方法として, 渇きを感じない安静時と, 高温低湿度環境下での比較的激しい運動負荷により渇きを感じるときと, 飲水によって渇きから回復したときの三つのフェーズ間での比較を行った。その結果, 口渇時には唾液中のタンパク濃度およびNa+, K+, Cl-イオン濃度が有意に増加し, 唾液緩衝能が有意に大きくなった。唾液分泌量は有意な変化ではないが減少傾向が認められた。しかし唾液pHについては個人によって変動の大きさや方向性が異なり, 共通した変化は認められなかった。また, 飲水後には, 主観評価においても客観評価においても渇きからの回復が認められたが, 安静時レベルまでの戻りは認められなかった。このことから, 従来からいわれているように, 水摂取だけでは渇きからの速やかな回復は得られないといえる。このように, 渇き感覚を唾液によって生理的な立場から客観的に評価することは, 今後, スポーツの後ののどの渇きや, 日常的なのどの渇きを癒す機能性を重視した飲料設計や評価を行うのに非常に役立つと考えられる。