抄録
現代の日本では日常的な疲労感が多くの人で問題となっている。疲労感はだれでもが感じる現象であるがその生成機構は明らかではない。運動によって疲労させたラットの脳脊髄液を他の動物の脳室内に投与すると疲れたように動かなくなることからそこに疲労に関与する物質があると予測された。淡水産腔腸動物の一種であるヒドラを用いたアッセイによりこれが transforming growth factor-beta (TGF-β) である可能性が示された。抗TGF-β抗体によって中和した脳脊髄液やTGF-βそのものを脳室内に投与する実験より, これが動物の自発行動を抑制する活性そのものであることが示された。脳脊髄液中のTGF-β濃度が運動強度の大きさと相関する結果と合わせて, 脳内のTGF-βが疲労感の生成に関与することが明らかとなった。