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雰囲気工学(Mood Engineering)
片上 大輔
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2016 年 28 巻 2 号 p. 50

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抄録

人が集まりコミュニケーションする場では,人は「雰囲気」を感じる.複数の人が発する言葉,表情,視線,うなずき等から人は雰囲気を感じ取り,次に起こり得る雰囲気を意識的あるいは無意識的に予測しながら対話コミュニケーションを進めている.人は雰囲気に基づき多様なコミュニケーションを進めている一方,雰囲気は言葉にして説明することが困難である.

雰囲気を工学的に扱う領域は雰囲気工学(Mood Engineering)と呼ばれ,2013年から分野の異なる関連の研究を集中して議論する場所を提供することを目指して,筆者らを中心に活動が行われている.雰囲気工学では,複数人が構成する人工的な雰囲気の工学的なモデルを作成することを試みる.雰囲気を工学的に議論することは,人間の新しいコミュニケーション基盤の構築につながる.

言葉で説明がしにくい雰囲気を解明するためのアプローチは,従来の工学的なやり方だけにこだわることなく,ロボットなどを用いた構成的手法,エスノグラフィーのような人の観察手法,発汗や脈拍計測のような生理指標や脳計測実験の利用など,様々な手段で取り組んでいく必要がある.具体的な研究対象としては,多人数の会話の場,複数の会話ロボットなどの人工的な言語・非言語情報による会話の場,Web メディアにおける複数人の言語活動(twitterやSNS)から推測されるネット上の雰囲気などが挙げられる.これらから,複数人が創り出す「雰囲気」を構成する工学的モデルを探り,モデルに基づいた新たな対話システムや新しいネットワークコミュニケーションシステムの確立を目指している.これらの議論は始まったばかりであり,今後の研究の発展が期待される.

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© 2016 日本知能情報ファジィ学会
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