2019 年 32 巻 3 号 p. 181-188
日本における超高齢社会の中で,歯科インプラント治療後の管理期間は長期に及び,装着時の患者を取り巻くさまざまな環境は大きく変化していくことも想定しなければならなくなってきた.「患者に寄り添う歯科治療」とは,その長期管理の中で歯科医師・歯科衛生士は「患者の何を理解すべきか」そして「患者の何をチェックすべきか」を機能解剖学的視点から考えてみたい.筋力は45歳位を過ぎると加齢とともに萎縮することが知られている.その理由は個々の筋線維が細くなりながら(タンパク量を減らしながら),筋線維数も減じていくからである.そして高齢者の筋力低下は全身の体軸を歪めていく.頭頸部もこの体全体の姿勢の一部であり,加齢変化による体軸の形態変化が頭位や顎位へ影響を与える可能性を考えていかねばならない.頭位は主に頸部側方から後方の筋群によって決定,維持される.また頸部後方の深層に存在する後頭下筋群の多くは,頸椎から頭蓋底をつないでおり,頸椎の前彎の消失による頭位の前方への傾斜が,これらの筋の正常なポジションを変えていく.そしてこの形態的・機能的な加齢変化は顎関節にも生じ,顎位に影響を与えることがある.よって超高齢社会を迎えた日本では,口腔内だけではなく全身的な加齢変化をも記録していくことの必要性があると考える.