目的:インプラントは口腔機能の回復に寄与するが,歯根膜の欠如したインプラントの挙動は,インプラント対合歯に影響を与える可能性がある.本研究の目的はインプラント長期経過症例の対合歯喪失に関連する因子の検討である.
方法:2005年1月から2008年1月に臼歯部に上部構造を装着し,10年以上メインテナンスを継続した患者のうち,対合が天然歯もしくは天然歯支台固定性補綴装置の患者を対象とした.
調査項目1として,インプラント,インプラント補綴装置,インプラント対合歯の喪失の有無,調査項目2として,対合歯の位置(上顎,下顎),歯髄の有無,歯周炎の既往,下顎角の大きさを調査し,二項ロジスティック回帰分析を行った(p<0.01).
結果:調査者数は358名(男性121名,女性237名,平均年齢65.8歳),インプラント数は700本(上顎397本/201名,下顎303本/157名),インプラント補綴装置数は358装置,インプラント対合歯数は667本だった.
インプラント,インプラント補綴装置,インプラントの対合歯の喪失は,10本/8名,0装置/0名,62本/32名だった.統計学的有意差は,患者レベルでは,歯周炎の既往,下顎角の大きさで,インプラントレベルでは,対合歯の歯髄の有無,歯周炎の既往,下顎角の大きさで認められた.
結論:インプラント対合歯へ影響する要因として,対合歯の歯髄の有無,歯周炎の既往,下顎角の大きさが挙げられ,対合歯の位置(上顎,下顎)は影響しないと考えられた.