日本口腔インプラント学会誌
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特集 欠損の原因から包括的にインプラント治療を再考する
崩壊原因を考慮したインプラント補綴:特に力の観点から
武田 孝之
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2020 年 33 巻 2 号 p. 142-149

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抄録

患者の主訴改善を目指し,損なわれた形態・機能回復を達成することが補綴治療の目的である.そのためには包括的治療を行うことが望ましいが,すべての患者で歯科医師が理想とする治療を行えるわけではなく,さらに,たとえ包括的な対応ができても崩壊原因およびリスクをゼロにすることはできない.そこで,最も重要なことはさまざまな要素から崩壊原因を推測し診断することにあり,そして,そのリスクを治療方針に反映することである.リスクは環境因子,生体因子,複合因子に大別されるが,可変性を有する環境因子と複合因子を患者によく理解してもらい治療後の安定を図る必要がある.

補綴治療後の長期性を妨げる要因は主に感染と力であるが,特にインプラント補綴治療後は力による破壊を考慮しなければならない.力は病的咬合,パラファンクション,過大な力,食事習慣に大別される.患者は多様性に富むために,一口に力といってもどの因子が崩壊原因として悪影響を与えてきたのかを類推しなければならない.そして,それらを改善すべく治療を行うが,その際に常に優先順位を考え現実的に可能な対応をする.患者の価値観や経済的背景,そして年齢など多くの要素を勘案し治療方針を決定すべきである.

為害性の高い力に対する持続性のある効果的な対策はいまだに明確になっていない.それでも繰り返しリスクを患者に伝え,リスクを共有してもらう地道な対応が必要となる.

診断は一つ,治療方針は多岐にわたることを心にとめて患者に臨まねばならない.

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© 2020 公益社団法人日本口腔インプラント学会
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