抄録
今回われわれは,上顎歯肉に初発症状を認めた肺原発上顎歯肉転移癌を経験したためその治療経過の概要に文献的考察を加えて報告する。患者は80歳男性,初診時右側上顎歯肉に,直径18mm弾性軟の腫瘤を認めた。生検の結果,大細胞癌と診断された。歯肉原発の可能性が低く,全身精査を実施したところ,左側上肺野,胃,脳に腫瘍性病変を認め,肺原発多発転移癌の診断を得た。上顎歯肉転移癌は生検後急速に増大したため,S-1を併用した同時化学放射線療法を実施し,照射量合計38.4Gyで終了した。これらの放射線治療によって上顎歯肉転移癌の縮小を認めた。治療後,脳梗塞を発症し死の転帰となったが,死の直前まで腫瘍の増大もなく,経口摂取の継続が可能であった。根治治療の適応がない肺原発歯肉転移癌に対する,姑息的同時化学放射線療法は,患者のQOL維持に有効な治療法の1つであると思われた。