抄録
T1・T2外向型舌癌は,5年無病生存率が比較的高く,良好な予後が期待できると考えられている。われわれは原発巣切除後,短期間に頸部リンパ節転移と肝転移を生じたStage I外向型舌癌の症例を経験したので報告する。患者は79歳男性で,左側舌縁部の疼痛を主訴に来院した。左側舌縁後方部に19×19×7mm大の外向性腫瘤を認め,Stage I舌癌の臨床診断に基づき舌部分切除術を施行した。病理組織学的診断は,WHO Grade 2,YK-4Cの扁平上皮癌であった。術後3か月に後発頸部リンパ節転移を認めたため根治的頸部郭清術変法を施行したが,5か月後に頸部再発・肝転移を生じ,全経過13か月で患者は死亡した。本症例の病理組織学的悪性度指標としては,原発巣の組織所見では,癌胞巣と宿主組織との境界は比較的明瞭であったが,癌巣内部においてリンパ管侵襲が認められた。免疫組織化学的な悪性度指標としては,癌細胞のE-cadherin減弱とp53陽性核が認められた。癌巣内部の間質には,拡張したリンパ管腔像と腫瘍塞栓がみられ,αSMA/S100A4陽性を示す筋線維芽細胞の増生が顕著であった。舌癌の予後判定において,癌細胞の組織学的な悪性度指標のほかに,筋線維芽細胞などの腫瘍間質や宿主間質の性状についても検討の必要性を示唆する症例と考えられた。