抄録
口腔領域に初発症状を呈した悪性リンパ腫10例の臨床的特徴について検討した。初診時年齢は23~88歳で平均年齢は58.1歳であった。発生部位は上顎歯肉が3例と最も多く,次いで口蓋が2例,他は下顎歯肉,下顎骨,舌,口底,口唇が1例ずつであった。口腔内症状として6例に腫瘤あるいは腫脹を認め,2例に潰瘍,残りの2例は腫瘤・腫脹と潰瘍のどちらも認めた。疼痛を伴う症例は5例であった。病理組織学的にはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が6例と最も多く,臨床病期はAnn Arbor分類Stage Iが4例,Stage IIが2例,Stage IVが4例であった。10例のうち8例で寛解あるいは自然消褪し,2例は原病死した。
これに加えて,本邦において報告された口腔内に発生した悪性リンパ腫の症例報告140例について文献的に考察した。発生部位は歯肉,口蓋が多く,初発症状は腫脹・腫瘤が多い傾向にあった。また,口腔領域に発生する悪性リンパ腫は診断に苦慮することも多く,17.1%の症例で診断を得るのに複数回の生検を要していた。特に潰瘍や壊死を伴う症例では診断がつきにくい傾向にあった。組織型はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が最も多く,次いでMALTリンパ腫,節外性NK/Tリンパ腫の順であった。臨床病期分類はStage Iが最も多く,約40%であった。