日本口腔腫瘍学会誌
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症例報告
口底癌術後に上腸間膜動脈閉塞症を発症した1例
早坂 純一林 宏栄佐瀬 美和子野口 忠秀伊藤 弘人神部 芳則草間 幹夫森 良之
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2017 年 29 巻 4 号 p. 227-232

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抄録

急性上腸間膜動脈閉塞症は,発症初期に臨床症状が乏しいため早期診断が難しく,また急速で広範囲に腸管虚血や壊死を来す極めて予後不良な疾患である。今回われわれは,口底癌術後に上腸間膜動脈閉塞症を発症した1例を経験したので報告する。患者は73歳の女性で,心房細動の既往がありワルファリンカリウムによる抗血栓療法を受けていた。口底部に難治性潰瘍を生じ,近医歯科を受診したところ当科紹介受診となった。精査の結果,口底扁平上皮癌の診断となり,ヘパリンブリッジで抗血栓療法を行いながら口底部分切除術を施行した。術後2日目に腹痛を生じ,消化器科に対診し経過を観察したが症状はさらに増悪した。腹痛出現3時間後,腹痛の精査目的にCTを施行したところ上腸管膜動脈の閉塞が認められた。ついで画像下治療(以下,IVR)が行われ,血栓吸引およびウロキナーゼ投与による血栓溶解による治療が施行された。治療3時間後には腹痛は消退し,血流は再開した。しかしウロキナーゼ投与中は,口腔の手術創からの持続的な出血を生じ気道閉塞のリスクがあった。
急性腹症を起こしている心疾患を有する高齢者は,本症のハイリスク患者であることを認識することが重要である。また早期診断には腹部造影CTとIVRおよびD-dimerによるモニタリングが有用であると考えられた。ウロキナーゼ投与時は,口腔の手術創からの持続的な出血や血腫形成に伴う気道トラブルに留意することが肝要である。

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© 2017 一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
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