本邦における高齢頭頸部がん患者は増加傾向にあり,治療適応の判断は各医療者の裁量に委ねられているが非常に難しい。暦年齢による区分の可否,老年症候群,特有の身体的特徴など種々の問題があるものの,明確な判断基準がないまま,年齢,PS,医療者の経験などに基づいてその判断が行われてきた。近年,新たな判断材料の一つとして,薬物療法適応の治療前評価を目的としたいくつかのツールの開発が進んでいる。薬物療法の有用性は,過去に多くの検証試験を通じて証明されてきたが,各試験の対象患者に占める高齢者の割合は小さく,また,年齢の上限が設けられている試験も多いことから,高齢者に対する生存への効果は明確でない。代表的な各試験のサブ解析を確認しても,有効性を示唆するデータは存在しない。しかし,患者の治療目標は必ずしも生存の延長ではなく,症状緩和,QOL維持なども生存と同様に大切な事項である。個々の症例の治療目標を明確にし,対象患者の薬物療法の適応を見極めた上で治療を行うことができれば,十分に有用なものとなりうる。
高齢者を対象とした新たな臨床研究も数多く行われており,肺癌,大腸癌,乳がんなどのメジャーな悪性腫瘍を中心に次々と臨床試験が立ち上げられている。頭頸部癌についての検討は未だ少ないものの,海外ではその取り組みも始まっており,われわれが向き合うべき課題の一つである。がん薬物療法を受ける全高齢者の世界的な問題であり,他の癌種を含めた開発の動向を注視すべきである。
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