2018 年 30 巻 3 号 p. 85-97
厚生労働省は,県内のがん診療の連携協力体制の整備やがんに関する相談支援情報の提供にあたって中心的な役割を果たす都道府県がん診療連携拠点病院を指定している。大学病院がこの指定を受けている場合,医育機関という本来の役割から,多職種連携でがん支持療法を担う人材育成という役割も果たす必要がある。
岡山大学病院は2011年に,がんの支持療法を歯科の専門性をもって行うことを一つの目的とした専門診療部(医療支援歯科治療部)を開設した。そして,多くのがん手術療法,放射線療法,化学療法などにおいて,がん口腔支持療法を積極的に展開している。
この治療部は,学部教育あるいは歯科医師臨床研修においてがん口腔支持療法の担い手を養成する絶好の場となり得る。そこで,2012年度から,研修歯科医が多職種連携医療の中における歯科医師の役割について学び,実践するための研修プログラムを開始した。本院で展開される様々な多職種連携医療に研修歯科医師をその一員として可能な範囲で参画させている。さらに,歯学部6年次生を対象に,診療参加型臨床実習でも1週間の実習期間を必修とした。
がん口腔支持療法の分野は医療に必須な分野として引き続き発展が必要である。技術的な面のさらなる研鑽は言うに及ばず,全身的な医科的な知識の習得,がんを抱える患者を心理面でサポートできる能力,他職種との人間関係の構築能力,そして患者の死生観に至るような哲学的な理解も必要とされる。このことは,がん医療のみならず,本邦が課題とする健康長寿社会の実現に貢献する歯科医療人に共通して必要な素養である。歯科医療の幅を広げる若手歯科医師の育成が必要である。