抄録
縫合糸膿瘍は,頭頸部悪性腫瘍の術後にしばしば遭遇し,その臨床症状ならびに画像所見から局所再発やリンパ節転移との鑑別を要することがある。
今回われわれは,口腔癌頸部郭清術後の創部に多発した縫合糸膿瘍の1例を経験したので報告する。
患者は71歳,女性。右側口底部扁平上皮癌に対して両側肩甲舌骨筋上郭清術,口底部腫瘍切除術,血管柄付き遊離前腕皮弁による再建術を施行した。術後4か月頃から両側顎下部に皮下膿瘍を認めるようになり,膿瘍の掻爬物中に縫合糸を認めたことから縫合糸膿瘍と診断した。その後も顎下部から中頸部に多発した皮下腫瘤を認めるようになり,CT,MR,FDG-PETでは頸部再発が疑われる所見であった。超音波検査では腫瘤は縫合糸膿瘍の可能性が示唆された。顎下部皮下腫瘤に対し摘除生検を施行したところ,腫瘤内には結紮に使用した絹糸が認められた。病理組織学所見でも縫合糸を取り囲むように限局した炎症性細胞浸潤,毛細血管増生からなる肉芽組織を認め,縫合糸膿瘍と診断した。経過観察中も頸部ならびに皮弁採取部の前腕部の皮下にも同様の所見を認めたため,腫瘤の摘除を行ったところ縫合糸膿瘍であった。
本邦において血管結紮への吸収性縫合糸の転換はまだ課題が多く,適切な条件下でエナジーデバイスを有効利用することは,縫合糸膿瘍の形成リスクを減少させるための1つの方法に成り得ると考えられる。