抄録
われわれは難治性てんかんに対して迷走神経刺激(VNS)療法を施行中の患者に発症した下顎歯肉癌の1例を報告する。患者は65歳,男性。左下顎歯肉部の疼痛を主訴に当院を受診した。既往歴に脳出血の後遺症による続発性てんかんがあり,薬物のみでのコントロールが困難でVNS療法が施行されていた。左側下顎歯肉には30×20mmの表面乳頭状の腫瘤形成を認めた。組織生検および画像検査から,下顎歯肉癌(SCC,T2N0M0)と診断した。治療として左頸部郭清術(Level 1-2),左下顎区域切除術,遊離腓骨皮弁再建術を行った。VNSはLevel 3領域にあり,術野に露出しなかった。VNSのためにMRIの撮影や電気メスの使用ができなかった。術後にメーカー担当者とVNSの動作確認を行った。術後1年1か月後に再建骨に3本のインプラントを埋入し,術後1年11か月後にインプラントオーバーデンチャーを装着した。術後約3年が経過し,再発転移無く経過良好である。