抄録
細胞は一定の強さの電圧パルス処理を受けると, 細胞膜に可逆性の微小細孔を生じる。この過程は電気穿孔法 (electroporation) として知られ, 抗癌剤bleomycin (BLM) を癌細胞内に高濃度に取り込ませることにも応用されている。この電気穿孔法と抗癌剤との組み合わせよりなる新しい癌の治療法はElectrochemotherapy (ECT) と名づけられている。今回われわれはハムスターの歯肉癌を用いて, BLMの局注によるECTの有効性を検討した。
本研究における電気穿孔のための電圧パルス処理条件のうち, 電圧のパルス長は99μsで, 計8パルスを1秒間隔で処理した。パルス電圧の強さは, 一般に2つの電極間の距離に対する電圧の比で示され, 今回は130v/mmを基準とした。電極はプレート型もしくはニードル型の2種類を用い, BLMの腫瘍内局注直後に電圧パルス処理を加えた。
ECTを施行後1週間, コントロール群にはなんら抗腫瘍効果が認められなかったのに対し, ECT施行群はいずれも腫瘍体積の縮小を認めた。2週間後, プレート型電極を用いてECTを施行した群は, 腫瘍の再増殖を認めたが, ニードル型電極を用いた群は引き続き腫瘍の縮小を認め, 3週後, 6例中1例はCRを示した。以上の結果は, ECTはハムスターの歯肉癌実験モデルにおいて, BLMの抗腫瘍効果を増強したことを示し, 特にニードル型電極が有用であった。