抄録
Electrochemotherapy (ECT) は腫瘍に高電圧パルスをかけることにより, 抗癌剤の抗腫瘍効果を増強する新しい治療法である。本研究では, 口腔癌の治療を想定し, ラット扁平上皮癌細胞株 (SCC158) をラットの舌へ移植し, ECTの実験的検討を行った。方法は, ブレオマイシンを投与30分後に移植舌癌に高電圧パルス (1200V/cm, 0.1msec, 8pulses) を加え, 抗腫瘍効果について検討するとともに, 腫瘍の変性効果, ならびに周囲組織の治癒過程について組織学的に観察評価した。
さらに, ECTにおける高電圧パルスの電圧を変化させ (125-1200V/cm, 0.1msec, 8pulses) , 組織学的に至適電圧を検討した。結果は, ECT後3日目以降, 移植舌癌は消失し, 組織学的にもほぼ完全に消失することが判明し, その治癒過程は概して異常なく経過したが, 電場内の正常組織も壊死変性した。また, ECTの抗腫瘍効果は電圧が1000V/cm以上で最も強く発現したが, 電場内の正常組織の損傷も同時に高度となった。ECTは舌癌の優れた治療法であり, ヒト口腔癌への応用が期待されるが, 今後, 正常組織への損傷や転移誘発の問題を解決する必要がある。