抄録
本研究は舌癌において腫瘍浸潤範囲を手術前に察知する上でMR画像の有用性について45症例を用いて評価したものである。MR画像上で計測した腫瘍浸潤の深さを手術で切除された当該症例の病理組織標本での実際の腫瘍浸潤範囲と比較検討した。腫瘍病変の描出能についてT1強調像, T2強調像, 造影強調像の3タイプのMR画像について比較検討を行った。これら3群の中ではT2強調像が腫瘍検出の点では最も高い精度を示した。次に, 各々の病理組織切片での腫瘍範囲を計測し, 病理組織標本の作製過程に伴う標本の縮小率を計算した。補正した病理組織学的腫瘍深達度はこれらの標本の縮小率を考慮して補正したものである。補正した病理組織学的腫瘍深達度はMRI上での腫瘍深達度と統計学的に有意な相関が認められた。肉眼的な腫瘍発育様式, 組織学的な腫瘍浸潤様式では, その様式別に分類した各群間に有意差は認められなかった。一方, 間質におけるリンパ球・形質細胞浸潤が軽度ないし細胞浸潤なしの症例群においてはMRI上の腫瘍深達度と病理組織上の腫瘍深達度との相関係数は有意な値を示した。ところが, リンパ球・形質細胞浸潤が強度もしくは中等度の症例群では有意な相関は認められなかった。このことからMR画像上で診断される腫瘍の深さは, 実際の腫瘍深達度と一般的にはよく一致しているが, 間質におけるリンパ球・形質細胞浸潤が強い場合にはMR画像上の腫瘍の深さの診断には十分な注意が必要であることが示唆される。