2017 年 33 巻 6 号 p. 431-437
先天性QT延長症候群では遺伝子診断の進歩により,遺伝子変異に基づいた日常診療が可能となってきている.今回複合変異の発端者を含む,QT延長症候群の家族例を経験した.発端者は女児で,6歳時より運動時の失神を繰り返し受診した.補正QT時間(Bazett)0.67 sと延長を認め,失神の既往と合わせQT延長症候群と診断し,β遮断薬および運動制限を開始した.以後無症状だったが,10歳時にβ遮断薬内服中にもかかわらず失神が再発したことを契機に,発端者の遺伝子検査および家族の遺伝子スクリーニングを行った.発端者はKCNQ1 p.K358_Q359delとSCN5A p.A1330Tの複合変異ヘテロ接合体であり,父と姉にはSCN5A p.A1330T,母と妹にはKCNQ1 p.K358_Q359delのヘテロ接合性変異を同定した.その後発端者はβ遮断薬,Naチャネル遮断薬で8か月間失神なく経過しているが,植込み型除細動器を検討している.SCN5Aの変異を有する姉は心電図所見なく経過観察としたが,一方でKCNQ1の変異をもつ妹は運動負荷心電図でQT延長を認めたため,一次予防としてβ遮断薬と運動制限を開始した.遺伝子変異のみならず,臨床検査結果や家族歴等を加え検討することが治療方針決定に重要であった.