2020 年 36 巻 4 号 p. 277-284
背景:近年,本邦で急性リウマチ熱(ARF)を経験する機会はまれで,新規発症例の報告は毎年5~10例であるが,診断・治療が遅れると心不全を来すこともある重篤な疾患である.
方法:1994~2018年に我々の施設で診断された心炎を伴うARF 6例の臨床経過と予後について,診療録から後方視的に検討した.
結果:診断時年齢は3~13歳(中央値8.5歳),女児3例であった.初発症状は4例が発熱と関節症状,1例が関節症状,1例が心不全に伴う息切れと易疲労感であった.初診からARFの診断に至るまでの期間は3日~4年10か月(中央値11.5日)で,関節炎として他の診療科で治療された例は診断が遅れる傾向があった.Jones診断基準の大項目で認められたのは心炎,多発関節炎のみであった.弁膜炎としては大動脈弁閉鎖不全(AR)が5例に,僧帽弁閉鎖不全(MR)が3例に認められ,2例は両者を合併した.いずれもプレドニゾロン,アスピリン,抗菌薬で治療され(予防投与含む),1~15年(中央値9年)の経過観察期間でMRは改善したが,ARは残存し,2例は弁置換術が必要となった.ARFの再発は認められなかった.
結論:今回の検討では,初期に関節症状が目立ち,心炎の診断が遅れて重症化する例があった.溶連菌感染に関連した多発関節炎の診療においては,小児循環器科医による心炎のスクリーニングが重要であると考えられた.