抄録
上顎第一大臼歯の異所萌出は,小児歯科臨床においてときどき遭遇する異常の一つである。その治療は,ごく局所的な対応で解決する症例から,長期的な視点を持って対応をしなくてはならない症例まで様々である。治療の基本は,上顎第二乳臼歯にロックしている上顎第一大臼歯の遠心移動であるが,それを治療初期段階で達成できても,第二乳臼歯が早期に脱落し,第一大臼歯の保定が必要となったり,上顎第二小臼歯が舌側から萌出したりする可能性がある。さらには,第二大臼歯の咬合関係にも注意が必要になる。一方,個別にその他の不正咬合の問題を持っている場合もある。問題が起きる度に治療方法の説明をしていたのでは,患児・保護者から見れば,ゴールが非常に見えにくいものとなることは十分想像できる。その問題を解決するために,著者らは第一大臼歯の異所萌出対処フローチャートを考案した。このフローチャートは,術者の治療指針になるとともに,患児・保護者にとっても,今どの部分の治療が行われているのかをより具体的に理解できる利点があると考えられる。本論文では,そのフローチャートを紹介するとともに,フローチャートの流れ別の5 症例を提示する。