抄録
小児歯科医療の目的はいうまでもなく,健全な口腔機能を育成することにほかならない。小児を対象とした齲蝕や歯周疾患の予防,歯冠修復処置,歯内療法処置を含めた保存的治療や外科的処置,さらに保隙を含めた咬合誘導処置など,小児歯科領域の臨床での対応はすべて健全な口腔機能の獲得をめざした小児歯科学の理念に基づいている。近年の疾病構造の変化に伴い,小児患者における歯科受診の希望も歯列・咬合の診査に関するものが増加しており,日常の臨床においては形態的な異常を伴う症例の他,機能的な異常を伴う症例も少なからず見受けられる。理想的な歯列形態や咬合状態は乳歯列期からの正常な口腔機能によって獲得されるものである。この時期の正常な口腔機能,すなわち学習によって獲得される咀嚼機能や成熟型嚥下などの摂食機能は理想的な顎・顔面の成長過程において極めて重要である。このように,生体組織の形態と機能は表裏一体といえるべき存在である。これからの小児歯科医療の主体をなすと考えられる咬合誘導においては口腔機能の発達を考慮した対応が必要である。