抄録
フッ素徐放性ブラケット接着材を用いてブラケットとヒトエナメル質の接着力をせん断接着強さ試験にて調べた。また,各接着材のフッ素のリリースならびにリチャージ性能を検討した。その結果,スーパーボンドオルソマイトの接着力が最も強く(16.7 MPa),フジオルソLC(14.2 MPa),クラスパーF(12.9 MPa),ビューティオーソボンド(10.1 MPa),ビューティオーソボンドサリバテクト併用(7.4 MPa)の順に接着力は低下した(N=12)。せん断接着強さ試験後の被着面歯質側のSEM 観察の結果,ビューティオーソボンドは,歯質表面は比較的滑沢であった。しかし,強い接着力を示したスーパーボンドオルソマイトとクラスパーF では,歯質表面にエナメル小柱構造が露出しており,歯質への損傷が認められた。フッ素のリリース量の測定では,測定1 日目に最も多くフッ素がリリースした。2 日目,3 日目と徐々に減少し,4 日目から7 日目まで平衡状態になった。グラスアイオノマー系ブラケット接着材のフジオルソLCからリリースするフッ素量が最も多かった。S-PRG フィラーを含有しているビューティオーソボンドがそれに続いた。フッ素のリチャージ後も同様の傾向を示した。以上の結果から,本実験で用いたフッ素徐放性ブラケット接着材は適度な接着力を示し,被着面歯質への影響が少なく,多量のフッ素のリリースならびにリチャージ能を有しており,臨床的に齲蝕誘発環境になりやすい矯正用装置接着に関して有効な材料であることが示された。