抄録
下顎両側乳中切歯が唇舌方向にほぼ水平に埋伏していたが,その後自然な萌出と歯軸の整直を認めたので報告する。患児は初診時,1 歳8 か月の女児で下顎両側乳中切歯の萌出遅延を主訴に来院され,下顎両側乳中切歯の唇舌方向へのほぼ水平な埋伏を認めた。授乳は1 歳3 か月に終了しており,おしゃぶり,吸指癖などの口腔習癖はなかった。初診時のエックス線診査から歯根の彎曲の有無については不明であったが,初診時の年齢から自然な萌出の可能性を期待して,開窓療法も行わず,しばらく口腔内写真により比較して経過観察することにした。2 歳5 か月時には,舌側歯肉での切端部による隆起の唇側方向への移動が認められた。2 歳8 か月時には,左側乳中切歯の萌出を認めた。さらに,3 歳2 か月時に右側乳中切歯の萌出を認めた。3 歳8 か月時には,左右乳中切歯ともにほぼ正常な歯軸に整直した。パノラマエックス線写真から,両側永久中切歯の発育状態に異常は認められなかった。本症例を診て,2 歳頃にみられる下顎両側乳中切歯の唇舌方向の水平埋伏は,自然萌出し歯軸も整直する可能性がある。そのためには,口腔習癖を確認し,できれば側貌エックス線写真により歯根彎曲を確認し,開窓療法も考慮に入れながら,歯肉歯槽内での歯軸の変化を口腔内写真により注意深く比較観察することが重要であることが示唆された。