抄録
今回,齲蝕処置を希望して本学医科歯科総合病院小児歯科外来を受診した10 歳女児に対し,パノラマエックス線撮影を行ったところ,偶然上顎右側第二大臼歯歯胚の咬合面上部に歯牙腫を認めた。歯牙腫摘出と上顎右側第二大臼歯歯胚の回転を行い,約6 年間経過観察したところ,上顎右側第二大臼歯の萌出がみられた。歯冠はエナメル質の低石灰化を呈していたため既製冠を用いて歯冠修復処置を行った。歯牙腫の発生原因については,第三大臼歯の歯胚が先天的に欠如していることから何らかの原因により第三大臼歯の歯胚が変化したものと考えられた。更に上顎右側第二大臼歯が歯牙腫によって埋伏する可能性が考えられたため,早期に歯牙腫を摘出し,上顎右側第二大臼歯の萌出方向の異常を外科的に回転させ,1 年2 か月後に萌出を認めた。これは歯牙腫という萌出を阻害している原因を除去し,また,歯根形成の開始期に萌出方向を修正したことで正常な位置に萌出したと思われた。しかしこの外科的処置のため近心根の彎曲や遠心根の発育停止に至った可能性が考えられた。エナメル質の低石灰化の原因は,低年齢児から歯牙腫の影響があったこと,萌出方向修正時の外科的処置による影響の可能性もあると考えられた。したがって小児の咬合発育過程を正常に導くためには,これを障害する異常や口腔疾患を予防し,適切な時期に治療することが必要であると思われた。