抄録
今回著者は,骨性癒着を呈する半埋伏下顎左側第一大臼歯に対し,外科的脱臼後牽引し萌出誘導した症例を経験した。患児は,9 歳6 か月時に下顎左側第一大臼歯が未萌出のため,開窓術が施されたが萌出傾向が認められなかった。10 歳1 か月時には,下顎左側第三大臼歯の抜歯と下顎左側第一大臼歯の外科的脱臼が行われたが改善は見られず,11 歳1 か月時いちのせ小児歯科を受診した。8 か月間牽引処置を続けたが萌出傾向がなく,骨性癒着と判断した。12 歳4 か月時に外科的脱臼を施し,その18 日後に牽引をしたが骨性癒着が再発した。再度外科的脱臼を試み,7 日後に牽引を再開したところ萌出傾向が認められ,13 歳3 か月時に装置を除去した。本症例から,骨性癒着の生じていない歯根完成の埋伏歯に対し,外科的脱臼し牽引せず萌出を期待することは,骨性癒着を誘発する可能性があるため慎重を要することが示唆された。また骨性癒着に対して外科的脱臼し牽引する場合,脱臼から牽引開始までの期間は慎重に経過観察し,牽引開始時期を決定することが重要と思われた。