顎顔面ならびに口腔器官は神経堤由来の間葉細胞と上皮細胞の相互作用により発生・形成され,その過程は各成長因子,転写因子,接着因子等により時間的,空間的に厳密に制御されている。FGF は発生初期ばかりなく,顎顔面領域での器官形成,特に,上皮・間充実織相互作用で重要な役割を担っている。我々は上皮細胞特異的に
fgfr1, fgfr2 を欠損したマウスを作成し,上皮特異的に
fgfr1 を欠損したマウスでは歯のエナメル質の形成障害ならびに咬耗が見られる事が明らかとなった。ヒトにおけるFGFR1 変異によるKallmann 症候群の口腔内の検索において,咬耗が多くの症例で見られた。一例の抜去乳歯のマイクロCT 検索において歯質の石灰化の不良が認められ,同症候群において歯の石灰化不良が咬耗と関係している事が推察された。一方,上皮特異的に
fgfr2 を欠損したマウスでは,ヒトの同遺伝子異常であるLADD 症候群と同様な所見が観察された。FGF の細胞内シグナル経路で重要な役割を果たす
FRS2α を部分欠損したマウスにおいて,歯の石灰化の遅延と口蓋裂が認められた。以上の結果により,FGF signal は顎顔面領域の器官発生,形態形成に重要な役割をはたしており,モデル動物研究とヒトの臨床所見とを統合する事により,多くの疾患の原因解明,ひいては治療法の開発に発展することが期待される。
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