小児歯科学雑誌
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50 巻 , 1 号
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総説
  • 髙森 一乗
    2012 年 50 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    顎顔面ならびに口腔器官は神経堤由来の間葉細胞と上皮細胞の相互作用により発生・形成され,その過程は各成長因子,転写因子,接着因子等により時間的,空間的に厳密に制御されている。FGF は発生初期ばかりなく,顎顔面領域での器官形成,特に,上皮・間充実織相互作用で重要な役割を担っている。我々は上皮細胞特異的にfgfr1, fgfr2 を欠損したマウスを作成し,上皮特異的にfgfr1 を欠損したマウスでは歯のエナメル質の形成障害ならびに咬耗が見られる事が明らかとなった。ヒトにおけるFGFR1 変異によるKallmann 症候群の口腔内の検索において,咬耗が多くの症例で見られた。一例の抜去乳歯のマイクロCT 検索において歯質の石灰化の不良が認められ,同症候群において歯の石灰化不良が咬耗と関係している事が推察された。一方,上皮特異的にfgfr2 を欠損したマウスでは,ヒトの同遺伝子異常であるLADD 症候群と同様な所見が観察された。FGF の細胞内シグナル経路で重要な役割を果たすFRS2α を部分欠損したマウスにおいて,歯の石灰化の遅延と口蓋裂が認められた。以上の結果により,FGF signal は顎顔面領域の器官発生,形態形成に重要な役割をはたしており,モデル動物研究とヒトの臨床所見とを統合する事により,多くの疾患の原因解明,ひいては治療法の開発に発展することが期待される。
  • 長谷川 智一
    2012 年 50 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    脱落し廃棄される乳歯の歯髄や歯根膜に多分化能を持つ細胞の存在が報告されている。小児歯科医療の現場において患者自身から採取され廃棄される抜去歯から細胞を分離し利用可能であれば,倫理的・免疫学的・安全性の問題を回避でき,さらに経済的にも安価な再生医療の資源になり得ると考えられる。しかし乳歯歯根膜由来の細胞には不死化細胞株が存在せず,そのため十分な再生医学研究が行われていない。そこで再生医学研究の実験材料を作る目的で,ヒト乳歯歯根膜細胞へテロメラーゼ遺伝子の導入により不死化細胞株の樹立を行った。single cell derived from human deciduous PDL(SH)と名付けSH 9, 10, 11 の3 株を分離した。全ての細胞株において,集団倍化指数(PDs)は80 PDs を越え,ヘイフリックの限界の50 PDs を越えて増殖していることから不死化していると考えられた。全ての細胞株で歯根膜のマーカーの遺伝子を発現していた。また骨芽細胞への分化能について検討した結果,SH 9 株のみが石灰化結節を形成した。さらにSH 9 株は幹細胞の遊走誘導をコントロールするstromal cell-derived factor-1 α を発現し,歯根膜組織の再生および恒常性の維持に働いていることが示唆された。以上のことから乳歯歯根膜細胞の不死化細胞株は,今後の再生医学研究に非常に有用であると考えられた。
  • 齊藤 一誠
    2012 年 50 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    小児期の顎口腔機能は,小さな大人としてその機能を理解することはできない。身体の成長発育に合わせて顎口腔機能もまた発達するためである。成人ではすでに獲得している機能,すなわち既知の機能の維持が重要であるが,疾患や外傷などの結果により一部の機能が低下した場合,「リ・ハビリテーション」により機能は回復する。しかし小児期は,未だ獲得していない機能を徐々に習得していく時期であることから,「ハビリテーション」(=機能の発達)という概念が必要となる。年齢によって獲得している機能は限定されており,各世代での発達段階を把握することも重要である。我々の研究グループでは,小児期の顎口腔機能を理解するために,多角的に検討しており,今回は咀嚼機能を中心に概説する。小児においては,固有の咀嚼運動が可能になってきているものの,成長発育に合った機能の獲得途上であるため,十分な咀嚼機能は有していない。我々小児歯科医は,子どもの発達段階を把握し,その時点での到達目標と現状との相違を理解する必要がある。問題が生じているのであれば,到達目標までのハビリテーションを行い,子どもの機能の発達を良い方向へ導いていくことが重要である。
  • 桜井 敦朗, 新谷 誠康
    2012 年 50 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    非常に複雑な細菌叢を有する口腔において,口腔領域の上皮は常に細菌の存在を認識する環境下にある。しかし,上皮組織はそのような細菌に対して生体深部への侵入を防ぐ障壁として機能しながらも,通常は口腔内の常在菌に対して強い炎症性応答を起こさない状態に制御されていると考えられている。一方,口腔領域の常在菌であるA 群レンサ球菌は幅広い病態を惹起する病原菌でありエンドソームを介して宿主細胞に侵入し,その結果宿主細胞の炎症性免疫応答が亢進することが報告されている。本稿の研究で,A 群レンサ球菌は細胞内への侵入後もすぐに消化されず細胞質内に脱出している菌が認められ,そのような菌はオートファゴソームと呼ばれる膜組織に改めて捕捉されていることが明らかとなった。しかし,細胞内に侵入する性質自体が上皮細胞の免疫応答機構に異常を生じ,炎症性応答を起こす原因になりうると考えられる。近年著者らは,強い病原性を持つA 群レンサ球菌だけでなく,口腔内に多く存在するビリダンスレンサ球菌の一部にも上皮細胞に侵入する能力を有する菌株が存在することを明らかにした。口腔内に細胞内侵入性菌が多数存在すると,その菌株自体が強い病原性を生じなくても上皮細胞の免疫応答に変化が生じることから,口腔内の他の微生物や外来異物に対して通常生じないような過剰な炎症性応答を生じる原因になると考えられる。
  • 吉原 俊博
    2012 年 50 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,エビデンスに基づく診療ガイドライン作成の背景とその作成手順について説明する。本稿の要旨を以下に示す。1 .Medical information network distribution service(Minds)には2011 年10 月現在,8 つの歯科に関係するガイドラインが公開されている。2 .Cochrane Review には2011 年10 月現在,93 の歯科に関するレビューが公開されている。3 .診療ガイドラインの作成において,文献検索とその選択が重要になるが,エビデンスレベルの高い文献を得ることは非常に難しく,その結果,推奨グレードを強くすることが困難になる。4 .「症状はないが,齲蝕を完全に除去すると露髄する可能性のある深部齲蝕を有する歯に対する有効な治療法は?」というクリニカル・クエスチョンを設定した場合,米国小児歯科学会診療ガイドラインでは「Guideline on pulp therapy for primary and young permanent teeth」というガイドラインが得られる。Cochrane Review では「Complete or ultraconservative removal of decayed tissue in unfilled teeth」というガイドラインが得られる。
原著
  • 髙橋 摩理, 大岡 貴史, 内海 明美, 向井 美惠
    2012 年 50 巻 1 号 p. 36-42
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム(以下ASD)児の摂食状況の調査と摂食・嚥下機能の評価を行い,療育場面および家庭における食事の問題に対する効果的な医療的支援方法を検討することを目的に本研究を行った。地域療育センター摂食・嚥下外来を受診したASD 25 名を対象に,主訴,摂食・嚥下機能評価,指導内容と経過等の検討を行った。主訴は偏食,丸飲み,溜め込みが多く,年齢により差がみられた。低年齢では口腔機能の未熟さや食具操作の未熟さが食べ方の問題として表出し,高年齢ではASD のこだわりなどの特性が偏食として問題になったものと思われる。一方,主訴と摂食・嚥下機能の問題が一致しないケースもみられ,保護者が小児の摂食・嚥下機能を正しく理解していない様子も窺われた。また,食べ方が口腔機能に影響を与えている様子が窺われ,ASD の食事の問題に対応するにあたっては,摂食・嚥下機能評価を行い,それに基づき支援方法を検討する必要性が示唆された。指導が継続しているケースは発達レベルが低く,自閉症の特性が強い傾向があり,全体的な発達を促す対応が重要と思われた。
  • 大塚 愛美, 佐貫 左知緒, 菊池 元宏, 伊平 弥生, 栗山 千裕, 朝田 芳信
    2012 年 50 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    近年,唾液中クロモグラニンA(以下,CgA)がストレスマーカーとして注目されているが,否定的な報告も散見する。そこで著者らは男児88 名,女児90 名へのシーラント処置を通し,このCgA 値がFrankl's Behavior Rating Scale と関連があるのか,そして臨床の場で簡便に応用できるのか検討するためのパイロット研究を実施した結果,以下の結論を得た。1 .CgA 値は[処置10 分前]が17.560±12.544,[処置直前]が16.075±13.019,[処置10 分後]が11.764±10.239 pmol/mg protein であった。また,[処置直前]と[処置10 分後]ならびに[処置10 分前]と[処置10 分後]間に有意な差が認められた。なお,男女差は認められなかった。2 .CgA 値と年齢との相関を求めたところ,[処置10 分前]と[処置直前]において年齢とCgA 値との間に有意な負の相関が認められた。3 .CgA 値と日内変動について有意な関係は認められなかった。4 .CgA 値とFrankl's Behavior Rating Scale との間に有意な相関は認められなかった。CgA は精神的ストレスを反映する傾向があるものの不安定であり,採取条件の統一を臨床現場で高度に達成するのは極めて難しく,現時点でストレスマーカーとしてのCgA の単独臨床応用は時期尚早と思われる。
臨床
  • 一瀬 智生
    2012 年 50 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    今回著者は,骨性癒着を呈する半埋伏下顎左側第一大臼歯に対し,外科的脱臼後牽引し萌出誘導した症例を経験した。患児は,9 歳6 か月時に下顎左側第一大臼歯が未萌出のため,開窓術が施されたが萌出傾向が認められなかった。10 歳1 か月時には,下顎左側第三大臼歯の抜歯と下顎左側第一大臼歯の外科的脱臼が行われたが改善は見られず,11 歳1 か月時いちのせ小児歯科を受診した。8 か月間牽引処置を続けたが萌出傾向がなく,骨性癒着と判断した。12 歳4 か月時に外科的脱臼を施し,その18 日後に牽引をしたが骨性癒着が再発した。再度外科的脱臼を試み,7 日後に牽引を再開したところ萌出傾向が認められ,13 歳3 か月時に装置を除去した。本症例から,骨性癒着の生じていない歯根完成の埋伏歯に対し,外科的脱臼し牽引せず萌出を期待することは,骨性癒着を誘発する可能性があるため慎重を要することが示唆された。また骨性癒着に対して外科的脱臼し牽引する場合,脱臼から牽引開始までの期間は慎重に経過観察し,牽引開始時期を決定することが重要と思われた。
  • 辰巳 千明, 折野 大輔, 清水 邦彦, 前田 隆秀
    2012 年 50 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2012/03/25
    公開日: 2015/03/15
    ジャーナル フリー
    血友病は,外科処置や外傷,歯の交換,抜歯に伴い長引く異常出血が見られる出血性疾患である。交換期の上顎左側乳犬歯と上顎左側第一乳臼歯の抜歯後の止血困難をきっかけに,軽度血友病A と診断された10 歳0 か月男児1 例を経験した。抜歯に先立って保護者に出血傾向の有無について問診したところ,無しの返答を受けた。抜歯後の止血が容易でなかったことから,抜歯窩をガーゼで圧迫し20 分間噛ませたところ止血した。しかしながら,帰宅後,抜歯窩から出血し,止血しないため翌日来院した。浸潤麻酔下で抜歯窩を縫合した後,CO2 レーザーとシーネを用いて止血した。抜歯後に異常出血を経験したことから再度の問診を行なった。患児は幼児期より転倒によって頻繁に背部,臀部に内出血がみられていたが,かかりつけ小児科医による定期的な血液検査によって,出血性素因が否定されていることを確認した。しかしながら,患児が軽度の出血傾向を有することを疑い,血液専門医療機関の受診を薦めた。某小児医療センター血液科において2 回の血液検査が行われ,軽度血友病A と診断された。
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