小児歯科学雑誌
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総説
乳歯歯根膜細胞による再生医学研究の可能性の検討
長谷川 智一
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2012 年 50 巻 1 号 p. 7-14

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抄録
脱落し廃棄される乳歯の歯髄や歯根膜に多分化能を持つ細胞の存在が報告されている。小児歯科医療の現場において患者自身から採取され廃棄される抜去歯から細胞を分離し利用可能であれば,倫理的・免疫学的・安全性の問題を回避でき,さらに経済的にも安価な再生医療の資源になり得ると考えられる。しかし乳歯歯根膜由来の細胞には不死化細胞株が存在せず,そのため十分な再生医学研究が行われていない。そこで再生医学研究の実験材料を作る目的で,ヒト乳歯歯根膜細胞へテロメラーゼ遺伝子の導入により不死化細胞株の樹立を行った。single cell derived from human deciduous PDL(SH)と名付けSH 9, 10, 11 の3 株を分離した。全ての細胞株において,集団倍化指数(PDs)は80 PDs を越え,ヘイフリックの限界の50 PDs を越えて増殖していることから不死化していると考えられた。全ての細胞株で歯根膜のマーカーの遺伝子を発現していた。また骨芽細胞への分化能について検討した結果,SH 9 株のみが石灰化結節を形成した。さらにSH 9 株は幹細胞の遊走誘導をコントロールするstromal cell-derived factor-1 α を発現し,歯根膜組織の再生および恒常性の維持に働いていることが示唆された。以上のことから乳歯歯根膜細胞の不死化細胞株は,今後の再生医学研究に非常に有用であると考えられた。
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© 2012 日本小児歯科学会
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