抄録
第一大臼歯の埋伏する頻度は極めて低く,その治療経過に対する報告も数少ない。今回,我々は下顎左側第一大臼歯埋伏症例に開窓および牽引治療を施し,長期育成治療を行った。患児は,9 歳6 か月の男児で下顎左側第一大臼歯の埋伏を主訴として福岡歯科大学医科歯科総合病院小児歯科に紹介で来院した。エックス線所見では,下顎左側第一大臼歯は,下顎左側第二大臼歯の歯胚よりも低位に埋伏しており,歯根は未完成で,骨性癒着などの異常所見は観察されなかった。開窓術を施行し,牽引を開始した結果,術後2 年5 か月で,萌出を完了した。その後約7 年間,咬合育成を行い良好な咬合関係を獲得することが出来た。本症例のように治療によって萌出誘導が期待できる埋伏歯には,埋伏歯の成長・発育や隣在歯への影響を考慮しながら,適切な治療計画のもとに牽引誘導処置を早期に行うことが重要であると考えられた。